学校法人森友学園(大阪市)への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、改ざんを強いられ、自死した同省近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54)の妻・雅子さん(50)が国に損害賠償を求めた訴訟は15日、国側が雅子さん側の請求を受け入れ、終結した。国側は請求の棄却を求めていたが、一転して賠償責任を認めた。雅子さんの代理人弁護士は「改ざん問題が追及されることを避けるため、訴訟を終わらせた」と批判した。
雅子さんの代理人弁護士によると、国側の代理人がこの日、大阪地裁であった非公開の訴訟手続きで、約1億700万円の損害賠償を求めた雅子さん側の請求を「認諾する」と伝えた。認諾は、被告が原告の請求を認めるもので、裁判所の調書に記載されると、確定判決と同じ効力を持つ。
国は地裁に提出した15日付の書面で、俊夫さんは、同省理財局からの改ざん指示への対応や、情報公開請求の対応業務に忙殺されて精神疾患を発症し、自死したと説明。認諾の理由について、決裁文書の改ざんという重大な行為があった事案の性質を踏まえ、「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではない」とした。
雅子さんは昨年3月、改ざんの詳しい経緯を明らかにしたいという願いから、国や佐川宣寿(のぶひさ)・元同省理財局長を相手に訴訟を起こした。訴訟では、俊夫さんが改ざんの経緯をまとめた「赤木ファイル」を提出するよう請求。国は「存否について答える必要がない」などとして拒んでいたが、今年6月に開示した。
雅子さんは訴訟で、ファイルの内容などを踏まえ、同省が俊夫さんの抵抗にどう対応したのか、国に明らかにするよう求めていた。
雅子さんは記者会見で「なぜ夫が亡くなったのかを知りたいと思って始めた裁判。お金を払えば済む問題ではない」と話した。
国を訴えた訴訟の終結に伴い、今後は、佐川氏に550万円の損害賠償を求めた訴訟が続くことになる。
鈴木俊一財務相は15日夕、報道陣の取材に応じ、「国の責任は明らかとの結論に至った」などと説明。「公務に起因して自死という結果に至ったことにつき、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。(米田優人)
【解説】国が閉ざした真相解明の機会
赤木俊夫さんを自死で失った妻の雅子さんが、国に真相解明を求めた訴訟は、国の認諾によって突然の幕切れとなった。雅子さん側は訴訟で、佐川氏や当時の理財局幹部らを証人請求する方針だったが、それもできなくなった。国が真相解明の機会を閉ざした形だ。
財務省は2018年に調査報告書を公表した。だが、改ざんを指示した文言や、近畿財務局職員らがどのように反発したのかなどは記されていなかった。雅子さんは、岸田文雄首相に改ざん問題の再調査を求めたが、岸田首相は「必要ない」との立場だ。
国は今回、俊夫さんが、強く反発したのに改ざんを指示され、自死したことは認めた。だが、改ざんの具体的な経緯を明らかにしないまま、賠償責任を認めて幕引きを図ろうとする国の姿勢に、雅子さん側が疑問を抱くのは当然だ。なぜ改ざんをさせられ、自死に追い込まれたのか――。雅子さんの問いに、国は真摯(しんし)に向き合うべきだ。
国が請求を認諾する理由(裁判資料から)
原告の夫が、強く反発した財務省理財局からの決裁文書の改ざん指示への対応を含め、森友学園案件に係る情報公開請求への対応などの様々な業務に忙殺され、精神面及び肉体面に過剰な負荷が継続したことにより、精神疾患を発症し、自死するに至ったことについて、国家賠償法上の責任を認めるのが相当との結論に至った。
そうである以上、いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではなく、また、決裁文書の改ざんという重大な行為が介在している本事案の性質などに鑑み、原告の請求を認諾するものである。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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