車で歩道に進入した80代男性の運転を止め、事故を防いだとして、福島県警南相馬署は21日、南相馬市の元タクシー運転手、高野栄さん(72)に感謝状を贈った。当時思い浮かべたのは、東京と福島市で起きた2件の高齢ドライバーによる事故だった。
12日午前10時ごろ、南相馬市原町区旭町2丁目を歩いていた高野さんは、歩道を走行しようとする乗用車を見つけた。前方に車止めがあり、バックランプが何度か点滅。高野さんはすぐに、歩道に間違えて入ったことに気が付いた。
車にはもみじマーク(高齢運転者標識)がついていた。車に駆け寄り、運転手の男性に声を掛けた。「病院に行かねば」という男性に対し、高野さんは窓の外からハンドルを握り、「アクセルを踏むなよ」と声を張り上げながら、車を安全な場所まで誘導した。その後、近くの通行人に110番通報してもらった。
高野さんは昨年まで約30年、東京都内でタクシーの運転手をしていた。19年には東京・池袋で高齢男性が運転する車が暴走し、母子がはねられて死亡する事故があった。高野さんは「運転手仲間と悲惨な事故だなと話していた」と言う。
先月には、福島市内で97歳男性が運転する車が歩道を時速60キロ超で暴走し、女性をはねて死亡させる事故もあった。高野さんは歩道で車を見つけた時、2件の事故を思い出したという。
署によると、80代男性は事故当日に免許を返納したという。高野さんは「地方では買い物や病院に行くには車が不可欠。高齢者が安心して運転できる車の開発や運転しなくてすむ社会が実現してほしい」と話す。
同署の菊池一志署長は高野さんの行動について「車が歩道を暴走し、大事故が起きた可能性があった。高齢者の事故を未然に防ぐ的確な対応だ」と話した。
県警は加齢や病気で運転に不安のある運転手や家族を対象にした相談ダイヤル「#8080」を設け、利用を呼びかけている。(滝口信之)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル