死を知らぬバービー 人里に降りて考えるAI時代の「人間らしさ」

記者コラム「多事奏論」 編集委員(天草)・近藤康太郎

 山奥で棚田を耕し、けものを追いかけ、人里に降りる用事がとんとなくなった。たまに故郷の東京に出てくるのは、文章講座をするときくらいだ。

 そんなとき、百姓・猟師の世界からもっとも遠い、キンキラなハリウッド映画を見ることにしている。意地である。吝嗇(りんしょく)である。交通費の元を取るのである。

 アメリカで大ヒットした映画「バービー」を見た。夢の国・不死の国の人形世界でハッピーに暮らしていたバービーが、ふとしたことからリアルな人間界にまぎれ込むコメディー。美形の白人女性バービーと、いけてる白人男性ケンのファンタジー恋愛ものを期待して入ると、いい意味で裏切られる。アメリカでは知識層からまじめな批評が盛んに出た。日本ではあまり見かけないが。

 なにしろ音楽映画としてすぐれている。デュア・リパのキンキラなディスコ音楽は、懐かしの1980年代テイスト全開。逆にニッキー・ミナージュは、ラップの中でも最新型のトラップ。マチスモに毒されたケンが男の沽券(こけん)に“覚醒”する場面で、スラッシュのメタルギターがマッチョに響く。芸が細かい。

 バービー世界のイメージカラーはピンク。主題歌の「ピンク」を歌う黒人女性のリゾは、見た目の巨体をからかわれることもあるシンガー。〈Pはプリティー、Iはインテリ、Nはネアカで、Kはカッコいい/ピンクはわたしに似合ってる〉という彼女の歌詞は、ユーモアでルッキズムと強烈に闘っている。

 いま、ルッキズム(容姿差別…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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