死刑告知から執行までを録音 死刑囚の肉声入りテープ、裁判に提出へ

阿部峻介

 日本では現在、死刑の執行を当日朝、本人に告げている。事前に告げると「心情の安定を害する」という理由からだ。こうした運用は、適正な手続きによらなければ刑罰を科されないことを定めた憲法31条に反するとして、死刑囚2人が大阪地裁に裁判を起こしている。2日前に告知され、執行されるまでの死刑囚の肉声が入ったテープが近く証拠提出される予定だ。

 肉声は1955年2月、当時の大阪拘置所長の故・玉井策郎さんがテープに録音したもの。戦後の700件余りの執行のうち、70年近く前の1件だが、法務省矯正局の担当者は「玉井氏の録音テープ以外に、告知から執行までを録音したようなケースは承知していない」としている。

 テープは、玉井さんが、強盗殺人罪で死刑が確定した死刑囚に「執行命令が来る」と告げるところから始まる。姉とみられる女性と2日続けて面会するやり取りや執行前日の「送別俳句会」のほか、読経が続く中、絞首刑が執行されるまでの場面が、計1時間40分ほどに編集されている。

 告知時期に関する法の定めはない。だが、原告側は、執行当日の告知では異議があっても弁護士に連絡できず、不服申し立てもできないと主張。家族らとの面会や身辺整理をする利益が侵害されているとし、国に計2200万円の損害賠償などを求めている。

 国側は裁判書面で、法相の国会答弁を引用し「当日より前に告知すれば、かえって過大で長期にわたる苦痛を与えることになりかねない」と指摘。告知は便宜的なもので「心情が不安定になる時間が長くなるほど、監視の隙をついて自殺や他害、職員に暴行するリスクが高まる」とし、請求を退けるよう求めている。

 テープは、玉井さんの孫にあたる女性が保管していた。女性の父が提供し、ラジオで流れたことはあるが、女性はさらに広い活用を期待する。「死刑の実態を知り、議論を深めるきっかけにしてほしい」(阿部峻介)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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