死刑の執行を直前に告知する今の運用は違憲だとして、死刑囚2人が「当日告知」を受け入れる義務がないことの確認や慰謝料を国に求めた訴訟の判決が15日、大阪地裁で言い渡される。ブラックボックス化した死刑制度の実態に迫り、具体的な議論につなげようと原告らが起こした3訴訟で、初の司法判断となる。
ある朝突然、刑務官に声をかけられ、絞首台に連行される。不服申し立ての制度はあるのに使う猶予はない――。原告側はこうした運用が「適正な手続きによらなければ処罰されない」とした憲法31条に反し、日本も批准する国際人権規約が禁じる「残虐な刑罰」に当たると訴える。
死刑執行は刑事訴訟法上、判決確定から6カ月以内に法務大臣が命じることになっている。ただ、違反しても罰則のない「訓示規定」で、再審請求の審査などを理由に執行までに何年も経過するのが通常だ。
原告側は、執行2日前に告知を受けた死刑囚が姉らとやりとりする音声を収めた1955年の録音テープを証拠提出。70年代に同様の事例が4件あったとして、かつてのように「事前に告知すべきだ」と主張した。
国は過去に事前告知をしていたことを認めたうえで、前日に告知した死刑囚が自殺したことがあったため、現在の運用に改めたと説明。当日告知には「円滑な執行のための合理性がある」と強調した。原告が回答を求めた自殺の時期や状況については、「回答の必要がない」とした。
国はさらに、そもそも執行の告知について定めた法律はなく、告知は本人であることの確認や遺体や遺品の扱いをめぐる意向確認のためにしていると説明。「死刑囚に告知を受ける法的な権利はない以上、いつ告知するかは刑事施設の長の裁量に委ねられる」と反論した。
死刑制度の運用をめぐっては今回の訴訟のほかに、「絞首刑の残虐性」「再審請求中の執行の是非」を問う2件の訴えが大阪地裁に起こされている。
3訴訟を担う金子武嗣弁護士は「死刑制度は国民も実態をほとんど知らない。訴訟によってブラックボックスに小さくてもいいから風穴を開けたい」と説明する。
当日告知については「法律できちんと定めるべきなのに、執行機関が恣意(しい)的に運用している」と指摘。強盗殺人罪などで死刑が確定し、死刑と向き合う長い拘禁生活で精神を病んだ袴田巌さん(88)=再審公判中=に触れ、「当日告知が『死』以上の苦痛を毎日与えていることを裁判所は直視してほしい」と訴えた。(山本逸生)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル