ミステリーから恋愛小説まで幅広く手がけ、文学賞を次々と受けてきた。華やかに見える人気作家は、その裏で大きな喪失に向き合っていた。悲しみの底からつづった言葉がいま、反響を集めている。孤独の日々を支えてくれたのは何だったのか。
夫の藤田宜永(よしなが)さんを2020年1月、肺がんで亡くした。夫婦ともに直木賞作家。おしどり夫婦として文壇で知られた2人は、言葉を武器に闘い続けた同志だった。わかりあえるがゆえに、ときに激しいけんかをしたという。死別後の日々をつづった本紙別刷り「be」での連載は、読者から千通近くにのぼる反響があった。連載をまとめた『月夜の森の梟(ふくろう)』が朝日新聞出版から今月、刊行された。
深夜になって出てきた一文
悲しみに埋もれるような本ではない。小説家をめざして一つ屋根の下で原稿に向かった若き頃。学生運動に傾倒して父を怒らせた青春時代。懐かしい日々を思い出し、穏やかな現在を見つめる。夫の病の深刻さを知り、絶望して泣きながら、ずるずるとカップラーメンをすする場面が印象的だ。
「よくあんなときにおなかが…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル