「能登杜氏(とうじ)」発祥の蔵とされ、能登半島地震で生産停止に追い込まれた「宗玄酒造」(石川県珠洲市)が、奇跡的に残ったもろみを使って日本酒の製造を再開した。設備が十分に使えないなか、昔ながらの製法で仕上げたその酒を「復興の酒」と名付け、12日から限定販売する。
1月1日、市内を震度6強の揺れが襲い、崩れた裏山の土砂が酒造の蔵や社屋に流れ込んだ。3棟あった蔵のうち2棟が被害を受けた。タンクが傾き、酒瓶やケースが散乱した。
出張していた社長の八木隆夫さん(60)が戻れたのは2日後の3日。停電と断水の中で、自らも家が倒壊するなど被災した社員らが集まった。片付けをする姿に、八木さんは強さを感じた。
傾いたタンクに、仕上げ作業を待つだけのもろみが残っている――。数日たった後、社員らとの間で話題になった。普段は機械でもろみを搾り、酒かすと清酒に分ける。
だが、停電などで機械は使えない。その間ももろみの発酵はとまらないため、このままでは無駄になってしまう。
「じゃあ、袋つりをやろう」。社員との間でアイデアが持ち上がった。
もろみを袋に詰め、空のタンクの上に一晩つるす。ポタポタとすき間からもれ出た液体が酒になる。機械に比べ時間がかかり、製造量も減るが、雑味が少なく洗練された味になるとされる。何より、自分たちで酒をつくっている実感があった。
手間がかかる製法のため、値段は720ミリリットル2本で2万5千円(税、送料込み)。2月1日にオンラインで先行販売したところ、用意した500セットは40分ほどで完売した。
八木さんは、珠洲を応援したいという思いが全国にあることを実感した。
今回は第2弾として、残ったもろみをすべて使い切り、一升瓶で219本を販売する。12日午後6時から、オンラインショップ(https://sogenonline.myshopify.com/)で受け付ける。2万6千円(税、送料込み)。
先行分と今回の販売分について、1セットまたは1本あたり各1万円を市に寄付するという。
次のシーズンに向けて、酒造り再開のめどはまだ立っていない。八木さんは「社員の誰も、心は折れていないし、そのことに僕自身が背中を押されている。なるべく早く再開して、復興の後押しをしたい」と話す。(中山直樹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル