その男性は、車で2時間ほどかけ、住宅街の一角にある寺を訪ねてきた。掲示板の言葉が見たかった。
《あなたが生まれた時、沢山(たくさん)の人を笑顔にして幸せにしたんです。だから「私なんて」って思わないで》
言葉は、毎朝、ツイッターでも発信されている。男性も毎日流れてくる言葉が心に刺さり、実物を見たいと思った。
特に響いた言葉がある。
《正しい意見でも思いやりがなければ言われた人は傷つく》
男性は56歳。パティシエとして30年以上働いてきたが、人間関係でモヤモヤすることも多かった。
「漠然と思っていることを具体的な言葉にしてもらえる。腑(ふ)に落ちるんです」
言葉だけ投稿 フォロワー45倍
言葉は、専念寺(大阪市平野区)の住職、藪本(やぶもと)正啓(まさひろ)さん(41)の作。
毎日一つずつ、掲示板に貼る。それを写真に撮って、ツイッターに載せる。地域猫の見回り活動をしているから、アカウント名は「ネコ坊主」だ。
《あんまり気にしない。どーせ何をしても言われます》
《ささいなことで他人を許せなくなってきたら危険信号》
最初は猫の写真を添えたり、お盆やお彼岸の行事の紹介もしたり。けれど、毛筆で書いた言葉だけをシンプルに発信し始めると、インパクトがあるからか、反応が大きく変わった。6月のことだ。
「本当にそう」「これは深い」「胸に刻んでおきます」
SNS上で広がる共感。8万人以上のフォロワーを持つお笑い芸人の目にも留まり、さらに拡散した。
その後は発信するたび、1万以上の「いいね」が集まる。フォロワー数は1カ月あまりで45倍ほど増え、9万人を超えた。
著名人の言葉を借りるときもあるが、ほぼ自作。「『気をつけないと』と自分が思ったことを書いている」
自分に向けた言葉だから、等身大で、説教くさくない。
反応が良かった七つの言葉
藪本さんは、普段の生活やSNSの反応などで気づいたことをスマホにメモしている。そこから伝えたい言葉を半紙に書くという。
ツイッターで反応が良かった七つの言葉と、それぞれの言葉に込めた思いやエピソードを紹介してもらった。
《成長がとまる人は、自分が理解できない事については、何でもけなす》
新しいことを始めると、周囲から「やめときや」という声が上がります。自分がわからないものは、怖いし、否定したくもなるでしょう。足を引っ張ることで自分を肯定しているのかもしれません。だけど、それでは、成長につながらないと、自分に言い聞かせています。
《言葉にしなくても伝わっているというのは都合の良い思い込みです》
掃除を手伝ってくれた母親(…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル