福岡市は2020年度、民生委員の活動費を26年ぶりに増額する方針を固めた。高齢者の見守りや子育て支援など地域福祉を支える民生委員は、高齢化や核家族化で重要性が増す一方、全国的に定員割れが深刻化。活動費を自費で補てんする委員も少なくないため、年間10万2千円から1万円程度増額して政令市のトップ水準に引き上げることで、担い手不足に歯止めをかけたい考えだ。
民生委員は、地元の推薦で厚生労働相が委嘱する特別職の地方公務員(非常勤)。任期は3年で児童委員も兼ねる。
福岡市では現在2345人が委嘱されており、1人当たり平均約330世帯を担当。主に主婦や自営業者、定年退職者が務めており、高齢者や障害者への声掛けや安否確認、子育てや生活困窮に関する相談、青少年の問題行動の把握など業務は多岐にわたる。
同市では世帯数の増加に合わせて委員の定数も増えた一方、担い手の高齢化などで定員割れが続く。昨年12月の委員改選では、3年前の前回に続いて定員(2522人)割れ。充足率は前回より2ポイント低い93%にとどまり、全国平均を2ポイント下回った。孤独死や児童虐待など社会問題が多様化したことにより、業務の負担感が増していることも担い手不足に拍車をかけているとみられる。
報酬は法律で無給と規定されているが、自治体を通じて交通費や通信費に相当する活動費が支給される。財源は国からの交付税(1人当たり年5万9千円)に加え、独自に上乗せする都道府県や市町村も多い。全国に20ある政令市では千葉市の11万4660円が最高で、福岡市は5番目となっている。
同市は、行政関係の調査依頼を削減するなど委員の負担軽減に着手。近年の活動実態や物価上昇も踏まえ、1994年以来となる活動費の増額も決めた。
業務分担へ地域の支援を
【解説】福岡市が民生委員の活動費を増額するのは、地域社会が抱える問題が複雑・多様化する中で、身近な相談役である民生委員の役割がより重要になっているためだ。金銭面でのサポートはもちろん、自治会や各種団体との業務分担などにより地域で活動を支える取り組みが不可欠といえる。
厚生労働省によると、民生委員の定員充足率(昨年12月の一斉改選時)は全国平均で95・2%。2016年の前回改選時から1・1ポイント低下し、欠員は1万1476人に上った。都道府県、政令市、中核市で定員に達したのは富山県と甲府市だけだった。
なり手が不足する一方で、高齢者の孤独死や児童虐待の増加、介護への悩みなど地域社会が抱える課題は多様化。核家族化の進展や地域付き合いが薄まる中で、民生委員に期待される役割は大きくなっている。
このため、委員の負担を少しでも減らそうと、業務の在り方を見直す自治体も出ている。近隣の委員と班をつくって活動を支え合ったり、ボランティアの学生らが活動を補助したりする仕組みが生まれている。
地域から「なり手を探すのは大変」との声は強まるばかりだが、民生委員は制度創設から100年超の歴史があり、最前線で地域福祉を支え続けている。国や自治体は業務内容やサポート態勢、財政支援の在り方など時代に合った抜本的な見直しに取り組むべきだ。 (泉修平)
【関連記事】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース