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国の気候変動・エネルギー政策に、自分がかかわれると思っている人はほとんどいないだろう。いや、一度は期待が膨らんだ。民主党政権下の2012年、討論型世論調査などを経て「30年代に原発稼働ゼロ」を決めた時だ。
だが、復帰した自民党政権は、原発ゼロの方針を覆した。市民参加による「熟議」の手法も消し去った。ある政府関係者は「『熟議』という言葉は使えない雰囲気だ」と漏らした。
欧州では、日本とまったく違う形での気候変動政策づくりが進む。くじ引きで選ばれた市民が、熟議の上で国や議会に政策提言をする手法が、広がりつつあるのだ。
フランスでは気候変動対策の一環として出された燃料税の引き上げに市民が反発、「黄色いベスト運動」が各地に広がり、政府は増税を撤回せざるを得なくなった。政治参加を求める市民の声が高まり、マクロン政権は昨年10月、気候市民会議を招集した。参加者は、電話番号を元に無作為に選ばれた150人の市民だ。
使命は「30年までに温室効果ガス排出を1990年比で少なくとも40%削減する具体的な政策を提言する」ことだ。専門家の助けも借りながら全体会議やグループ協議を重ね、4月初めに大統領に提言する。政府はフィルターをかけることなく国民投票や議会採決などで成否を問うとしている。
英国の気候市民会議の参加者は住所録から無作為に選ばれた市民110人。2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを達成する手段、政策を、英国議会下院の6特別委員会に提言することになっている。
なぜ、くじ引きで選ばれた市民が気候変動対策にかかわるのか?
「脱炭素という変革は主権者である市民の参加を抜きに進められない。官僚や専門家の意思決定だけに任せられないという考えの表れだ」。一般社団法人・環境政策対話研究所の柳下正治代表理事は指摘する。市民参加はスペインやドイツにも広がりつつあり、柳下さんは日本との差は開くばかりだと感じている。「脱炭素を実現できるかどうかは、民主主義の成熟度にかかっている」(編集委員・石井徹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル