河崎優子
東京オリンピック(五輪)のアーティスティックスイミングのチームテクニカルルーティンで6日、スペインチームは新しい試みに挑戦した。
♪特別じゃない 英雄じゃない みんなの上には空がある
ギターが奏でるあでやかなフラメンコの曲と曲の間に聞こえてくるのは、日本でなじみの深いCMソング「みんながみんな英雄」。立ち泳ぎをした8人は右手を頭上に、左手を顔の前まで上げ、それぞれの親指と人さし指を2回くっつけた。
取り入れたのは、手話。藤木麻祐子ヘッドコーチ(46)は「あなたと私は平等という手話です」と解説する。多様性や共生社会が注目される中、「耳が聞こえない人にも、アーティスティックスイミングに興味を持って欲しい」と発案した。
アイデアを聞いたイリス・ティオカサス(18)は「手話ってどんなの? 水の中でもできるのかな」と驚きと不安まじりの様子。オナ・カルボネルバリェステロ(31)は「ただのスポーツで終わらず、社会へのメッセージを伝えられるなんて革新的」とうなった。
チームは2019年夏から日本人の聴覚障害者を招き、手話を学び始めた。陸で合わせた動きを水の上で再現するのは大変だった。両手を使って手話をすると体が沈み、普段以上に足でかいて体を浮かせる必要があるからだ。
藤木コーチは、なるべく体力を消耗しない振り付けを何通りも試した。「競技的に評価される、面白くて意味が通じる振り付けを考えるのは大変だった」。表情にもこだわり、どんな顔が一番メッセージが伝わるか、チームで試行錯誤を重ねた。
本番では日本の手話を使うが、スペインの手話もあわせて学んだ。「こんにちは」は、スペインでは投げキスをするが、日本では両手の人さし指を曲げてお辞儀し合う様子で表現する。ティオカサスは「日本の文化についてより深く知ることができて楽しかった」。藤木コーチは「選手たちにとって、東京は人生において特別な場所になる。キーホルダーを買ったとかじゃない、モノ以外の財産を残したい」。
演技後、プールから上がった8人は晴れやかな笑顔を見せ、手話で「ありがとう」と伝えた。カルボネルバリェステロは「障害がある人もない人も、黒人も白人も、金持ちも貧しい人も、みんな平等。それを美しく伝えられた」。(河崎優子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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