全国の河川に設置されている水門や排水機場などの河川管理施設について、会計検査院が調べたところ、12施設で重要機器が故障していたのに、必要な緊急修理がされていなかったことが、関係者への取材でわかった。また、調査対象とした約500施設の半数で、国が定めた維持管理方法が守られていなかった。
調査施設の半数でマニュアル守らず
水門や排水機場などの河川管理施設は全国の1、2級河川に約2万8千カ所ある。多くは高度成長期に造られ、6割が40年以上経っているなど老朽化が問題となっている。国土交通省は施設内の機器の点検方法を定め、故障があれば緊急修理が必要としている。
検査院は2017~19年に国の交付金で維持管理をした14府県と政令指定市の河川管理施設など約500カ所の管理状況を調べた。
その結果、五つの府県と政令指定市の12施設で、重要機器約40個が緊急修理が必要だったのに、直ちに対応がされていなかった。いずれも水門や排水機場のゲートの開閉に影響を与えかねない機器で、中には、点検で不具合が見つかってから4年以上対策がとられていなかった機器もあった。
また、国交省が定めた維持管理方法では、点検で機器に異常があれば、「健全度評価」をした上で整備や更新の優先順位を決める必要があるが、約500カ所の施設の半分で、健全度評価を怠るなどしていた。
京大防災研究所の角哲也教授(河川工学)は「水門などは浸水被害を防ぐ要。開閉に関わる機器の故障や不具合が緊急に対処されていないのは問題だ。昨夏の豪雨災害でもポンプが作動せず被害が出るなど、河川管理施設の老朽化問題は顕在化している」と指摘。「自治体ごとに財政力や行政側の意識も異なり、維持管理状況には地域格差があるのが現状だ」と話した。(後藤遼太)
排水路修理、後回し 周辺住民は不安も
昨年7月の豪雨災害で河川の氾濫(はんらん)などの被害を受けた熊本県芦北町。八代海に注ぐ赤松川の河口にある排水機場では、15年の点検で海に排水する樋門(ひもん)の鉄製扉に腐食が見つかり、緊急修理が必要と判断された。検査院から指摘を受け、県は今年になって修理に着手した。
県河川課は「扉の開閉に問題がなかったので後回しになった」と説明。修理費用は約1200万円で、担当者は「限られた予算で県内全域の施設を順番に修理しなければならない。災害が多発する中で全体的に老朽化が進んでおり、悩ましい」と話す。
排水機場の周辺一帯は昨夏の豪雨で住宅数十棟が浸水した。近くに住む森親さん(73)は「排水機場は私らの命綱。しっかり整備してもらいたい」と話す。
一帯は、遠浅の海を干拓した標高1メートル以下で、豪雨の際、排水機場につながる自宅裏の水路から水があふれ床下浸水した。雨の多い夏場は排水機が動いて水位を下げている状態だ。「大雨の時に動かなかったら、床上どころか軒下まで水が来ると覚悟している」(後藤遼太)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル