係長になって1年ほどたったころだったと記憶している。
上司に「ちょっと」と呼ばれ、小声で言われた。
「○○の執行が決まった」
大阪拘置所で日々、向き合ってきた死刑囚に対し、死刑を執行するという説明だった。
薄々予想はしていた。前任の係長から「そろそろ法務大臣の執行命令があってもおかしくない」と言われていた。覚悟していたつもりだったが、いざ直面すると体がこわばった。
「ぞっとして一瞬、背中に冷たいものが走るように感じた」
単独室の見回りに、運動や面会の付き添い、集会場での催し――。死刑囚の処遇はもっぱら、自分たち刑務官の仕事だった。
「人間同士だから、一定の信頼関係ができていく。こちらの様子がいつもと少しでも違えば『執行か』と悟られ、不測の事態が起きるかもしれない。動揺させまいと必死でした」
届いた手紙「執行の現実、いま知ってほしい」
繊細なやり取りを重ね、職務…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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