手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の第24回受賞作が決まりました。選考にあたった、漫画家の秋本治さん、俳優の杏(あん)さん、小説家の桜庭一樹さん、マンガ家の里中満智子さん、学習院大学フランス語圏文化学科教授の中条省平さん、マンガ解説者の南信長さん、漫画家・マンガ研究家のみなもと太郎さん、マンガ研究者のヤマダトモコさんという8人の社外選考委員。それぞれに、選評を聞かせてもらいました。
秋本治さん(漫画家)
大賞は「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」で決まるかな、と楽観的に、推薦しました。マンガ大賞の各推薦作が決まり、8作全部読みました。候補作の凄(すご)さの驚きと、いままで読んでなくて申しわけないと反省しきり! 重厚な作品、最新の作品、現代アートの様(よう)な作品、「鬼滅の刃」大丈夫かな? と不安になりました。
それぞれジャンルも作風も異なる作品で1位を決めるのですから、選考会は緊張します。「鬼滅の刃」も最後まで残ったものの、甲乙つけがたい作品の中から漏れてしまいました。
「ニュクスの角灯(ランタン)」も名作で丁寧な作品作り、長崎、パリの文化の歴史など、そしてラストシーン。「銃座のウルナ」も、SFの戦記物かなと読んで行くと戦争後の物語が深く、国家とは、歴史とは、民族とは、と多方面に問題提起する、重くて、それでいて叙情的です。動きや音楽が流れるアニメ映画を観(み)た感覚になりました。戦争映画はよく見ますが、漫画で一人の作者がここまで描く事(こと)が可能なのかと衝撃を受けました。
「鬼滅の刃」もそうですが、アニメより原作の漫画が好きで、動きも、音楽も、色も無い、ページのめくり見開き、セリフだけでどこまで表現出来るかが、漫画最大の魅力だと思います。「ブルーピリオド」も美術という難しいジャンルを丹念に描いて魅力的な作品です。「夜光雲のサリッサ」も個人的に大好きな世界観です。「SPY×FAMILY」もキャラクターが生きていて、スピード感があり、面白いです。
「ロボ・サピエンス前史」は、読んだあと考えさせられますね。鉄腕アトムの頃は、ロボットは夢の世界だったけれど、今はAIの進化で、手塚先生が構想していた未来が、すぐ近くに来ている気がします。
「アスペル・カノジョ」も印象に残りました。漫画家にとって、ファンと作者両方の気持ちがわかります。選考のたび、各作品から刺激を頂きます。
1次選考で推した作品
【マンガ大賞】
「鬼滅の刃」吾峠呼世晴
「薬屋のひとりごと」原作・日向夏、作画・ねこクラゲ、構成・七緒一綺、キャラクター原案・しのとうこ
「クマ撃ちの女」安島薮太
「戦争は女の顔をしていない」小梅けいと、原作・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、監修・速水螺旋人
「正直不動産」大谷アキラ、原案・夏原武、脚本・水野光博
【新生賞】
原作・マツキタツヤ、漫画・宇佐崎しろ(「アクタージュ」)
【短編賞】
「ぐるぐるてくてく」帯屋ミドリ
《あきもと・おさむ》 1952年東京都葛飾区生まれ。漫画家。76年、「週刊少年ジャンプ」にて「こちら葛飾区亀有公園前派出所」でデビュー。40年間一度も休載せず週刊連載を続けた。第21回手塚治虫文化賞特別賞受賞。青年誌2誌に2作品を同時連載中。
■杏さん(…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル