6月中旬。この日、神戸市内は最高気温29度を超え、汗ばむ陽気だった。
兵庫県立長田高校3年の浜田麻衣さんは、学校を出てすぐのところで一人のお年寄りと目が合った。
80代くらいの女性が、路上に足を投げ出して座っている。表情はニコニコ。浜田さんは「大丈夫ですか」。自然と声をかけた。
「立てないの」と女性。両手を差し出し、立ち上がるのを助けてあげた。
そのまま手をつないで、ゆっくり歩き始めた2人。
どこから来たんだろう。
そう思って、横でずっと雑談を続ける女性から状況を聞き出そうとした。大きな声で聞こえるように。
女性は、朝から歩いていたという。「お父さんが待っているの。早く帰らないと」。目指している地名を教えてくれたが、浜田さんにはそれがどこだか分からなかった。
通りすがりの人たちに声をかけ、聞いてみた。すると何人目かの人が言った。「同じ地名が別の区にある」
同じ神戸市内とはいえ、歩いて行ける距離ではない。でも女性は、お金がなく電車に乗れないという。
「交番へ行った方がいい」と別の人が助言してくれた。「ありがとう。交番行くわ」と一人で向かおうとする女性を制止して、一緒に行くことにした。
約300メートル先の長田交番に着いた時には、最初に目が合ってから30分ほどたっていた。
交番で、警察官が女性の手提げかばんから、病院で患者が腕に巻くようなバンドを見つけた。
問い合わせてみると、交番から約1キロあまりの病院にいまも入院中だと分かった。近く、手術も控えていたらしい。
その後、迎えに来た看護師の付き添いで、女性は病院に戻ることができた。
浜田さんは、人命救助などをした人に県から贈呈される「のじぎく賞」を受賞した。「無事で何よりです」。そう言って、照れ笑いを見せた。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル