いかにも誇りにみちた酒場である――。かつて、作家の池波正太郎もこう評した京都市中京区・寺町商店街の老舗バー「京都サンボア」が、建物の老朽化に伴い、今月末で一時閉店する。90年の歴史あるバーの閉店を聞きつけ、惜しむ客が絶えず訪れている。
ガラスのはめ込まれた格子の扉を押して中に入ると、ウイスキーなどが並んだ酒棚を背景に、カウンターの奥から3代目店主・中川宏さん(65)が迎える。音楽のかからない静かな空間に、客の温かな笑い声。梁(はり)には、常連客が海外土産に持ってきた世界中の栓抜きがびっしりと飾られる。
「何にしましょ」
店主が円形のコースターをすっと差し出して聞くと、常連客は皆、この店の一番人気のお酒「ハイボール」と答える。ニッカのウイスキーをグラスにダブル(60cc)で注いだ後、氷と炭酸水(90cc)を加えるのが、京都サンボア流だ。
店の起源は、1918年の神戸市にあった喫茶店「岡西ミルクホール」。そこからのれん分けし、28年に祖父・中川護録さんが河原町通沿いに京都サンボアを開いた。終戦後、現在の場所に移転。宏さんは20歳でサンボアのカウンターに立ち、2代目の父・英一さんと2人で営み、93年に3代目として店を継いだ。
2階に居住空間があり、宏さんは幼いころから、学校の行き帰りにバーを通り、自然と酒の銘柄を覚えていった。酒の作り方は一緒にカウンターに立った父の背中を見て学んだ。「つまみの南京豆(ピーナツ)の渋皮は床に落とす」「カウンターにひじはつかせない」。このルールも受け継いだ。
「お連れさんがいるから」出された助け舟
以前はほぼ毎日通い続けたと…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル