山下玲奈さん=当時(8)=の母、和子さん(56)は毎年、6月8日が近づくと心身がつらくなる。唯一紛らわせてくれるのは、事件の5年後に生まれた長男(13)の6月4日の誕生日。「6月8日が近づく前に楽しいことがあるように、生まれてくれたのかな」と思う。
長男は今春、中学に入学。玲奈さんを知っていて、長男の成長を楽しみにしてくれている人も周りにたくさんいる。和子さんは「常に玲奈を感じる」と話す。「自分は悲しい思い出に包まれているというより、いつも見守られているんだな…」と、あたたかい気持ちに包まれる。
昨年、母校の雲雀丘(ひばりがおか)学園高(兵庫県宝塚市)の放送部員のインタビューを自宅で受け、事件のドキュメンタリー制作に協力した。「今は校門に警備員がいて安全に学校に通える環境だけど、それはあの事件があったからなんだと知ってほしかった」
取材は3回に及んだ。取材に来た女子生徒4人のうち、3人は事件が起きた平成13年度の生まれ。「とにかく明るく元気で、私の言うことをちゃんと聞いてくれる子だった」と玲奈さんのことを話す中、ふと「高校生だったら、こんなふうだったのかな」という思いがわき上がった。
生きていれば26歳。だが、記憶の中の姿は8歳のままだ。成長した姿を想像することはないという。
生徒らは幼稚園の同級生や先生も取材した。完成した作品「廻(まわ)り続ける」は昨年6月、NHK杯全国高校放送コンテスト兵庫県大会で準優勝を獲得した。
和子さんには、取材を通してうれしかったことがあった。取材を終えた生徒が、「当たり前の生活がありがたいと感じた」「家族とけんかすることもあるけど、仲良くしようと思う」と話してくれたことだ。
家族と過ごす「当たり前の生活」がどれほど大切で、かけがえのないものか。一番伝えたかったことが伝わった-と感じた。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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