【動画】ほかほかで販売する「アチコーコー豆腐」=伊東聖撮影
コラム南風
沖縄では、豆腐ができたての温かいまま売られている。熱い、ほかほかの、という意味で「アチコーコー豆腐」という。スーパーでは、パンの焼き上がり時刻のように、あったかい豆腐が届く時刻が掲示されている。ただ、このアチコーコー豆腐、どんどん減っている。
浦添(うらそえ)市のマックスバリュ伊祖店。「とうふのひろし屋」(那覇市)の糸数力也社長(45)が、売り場まで豆腐やゆし豆腐を運んで並べると、早速「2丁ちょうだい」と女性が手を伸ばした。「新鮮だし(パック入りより)こっちの方がおいしい」。その後も、袋ごしに手で触って温かさを確かめて買っていく姿が見られた。
県豆腐油揚商工組合によると、かつて豆腐は家庭で作っていて、おいしい豆腐を作れるのが主婦の腕自慢の一つだった。祝い事や法事に、祝儀や香典代わりに豆腐を差し出す習慣もあった。それがやがて商売として作る人も出てきて、温かいままの豆腐が売られるようになった。
1972年の日本復帰時に、食品衛生法に基づき「水にさらすように」と指導があったが、「沖縄の食文化だ」といった声が上がり、温かいまま売ることが特例として認められたという。
沖縄の豆腐は、かつて海水を使って豆腐を固めていた名残で、塩で味付けをし水分が少なく硬めなのが特徴。硬いので、チャンプルーに適している。1丁の重さは1キロが定番だったが、最近は半丁を袋に入れ、熱いまま袋の口を閉じないで販売するのが一般的だ。
ただ、アチコーコー豆腐は急激に減りつつある。「ひろし屋」は25年前までは、すべてアチコーコー豆腐だったが、今では全体の2割弱。アチコーコー豆腐を扱っていた地域の商店がコンビニに取って代わられ、取引先の飲食店やホテルからは日持ちする冷たい豆腐を求められる。アチコーコー豆腐を作らない業者もいる。
糸数社長は「沖縄の文化だから残したいが、食文化が変わって豆腐を食べる機会も減っている。いつかはなくなるかもしれない」と懸念する。だが、スーパーでアチコーコー豆腐を買った女性(76)は明るく言った。「あったかい方がおいしいさ。これが長生きの秘訣(ひけつ)よ」(伊東聖)
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沖縄にいる記者が、日頃のくらしの中で見たこと、感じたこと、面白いと思ったことをつづります。
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いとう・せい 1971年、長崎市生まれ。93年に入社し、山口や福岡、長崎で勤務。警視庁キャップ、東京社会部や西部報道センターのデスクを経て2018年4月から那覇総局長。沖縄での勤務は10年ぶり2回目。フルマラソンの自己ベストは3時間8分。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル