「流しそうめん」が人気の岐阜県郡上市美並町の「釜ケ滝滝茶屋」が今シーズンから冬季営業を始めた。昨年7月、東京で飲食店を経営していた2代目の長男が、新型コロナウイルスの影響で店を閉め、「親孝行でもしようかな」と故郷へ戻って茶屋を継いだ。新たに考案した鍋料理と温かいそうめんメニューで勝負をかける。
滝茶屋は1964年、国鉄の車掌だった初代が三つの滝からなる「釜ケ滝」の美しさに一目ぼれをし、滝の入り口に茶店を開いた。そこで売り出したのが流しそうめんだった。
当時、高校3年生だった2代目の小森毅さん(73)が、サイホンの原理を利用し、高低差を使って厨房(ちゅうぼう)からそうめんを流すことを思いついた。この仕組みで実用新案を取得。丸いテーブルの縁にトイをつけ、川からくみ上げた水を掛け流しにし、そこにそうめんを流す仕組みを考えた。
夏場は、涼を求めて県内外から観光客が押し寄せるが、冬場は滝を訪れる人も少なく茶屋の営業が成り立たない。「何とか冬も営業できないか」。毅さんはお好み焼きの販売や喫茶店などを試みたが長続きしなかった。地元の宴会客を除いて11月から3月はほぼ店を閉めていた。
コロナで新宿の店を畳んだ
約27年ぶりに故郷に戻ってきた長男の数正さん(45)は、約5年前から東京・新宿で飲食店を経営。多い時には従業員14人を雇うなど経営は順調だったが、昨春以降、新型コロナの影響で歓楽街から潮が引くように客がいなくなり、昨年3月に休業した。「コロナは終わらないのでは」と不安に駆られ、幸い借金もなかったため、店を畳む決断をした。
毅さんは「不謹慎かもしれないがコロナさまさまですよ。自分から帰ってきてくれると思っていなかった」と喜んだ。
毅さんは縫製業の傍らで茶屋を経営してきたが、夏場の営業だけでは生活は苦しい。数正さんは、飲食店での経験を生かし、1年間通して営業するため、流しそうめんを使った新メニューの開発に取り組んだ。
しょうゆをベースにしたつゆで鶏肉や野菜、豆腐などを煮た鍋で名物の流しそうめんを温めて食べる「そうめんしゃぶしゃぶ(流しにゅうめん)」(大人1千円)のほか、とんこつ風の「火山鍋」(予約制、2~3人前3500円)、マス鍋(1200円)などをメニューに追加した。
毅さんは「息子の研究した創作料理を提供すれば冬でも商売が成り立つのでは」、数正さんは「コロナで踏ん切りがついた。夏だけでなく、冬もそうめんが楽しめることを知ってもらいたい」と話す。
緊急事態宣言中の営業時間は午前10時半~午後4時半。問い合わせは釜ケ滝滝茶屋(0575・79・2917)へ。(松永佳伸)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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