入試シーズンが始まります。コロナ下で頑張る受験生たちへ、校長からのメッセージをお届けします。
校長から受験生へ:吉祥女子中学・高校・赤沼一弘さん
受験シーズンが迫ってきました。最後の模試で思うような結果が出せず、焦っている人もいるでしょう。でも絶対に諦めないで。付け焼き刃では挑めませんが、入試当日に、それまで積み重ねてきたものを発揮できればいいんです。まだ伸びる、まだやれると言い聞かせて、本番まで、足りないところを補う勉強を続けて下さい。
当たり前ですが、受験は受けなかったら落ちることすらありません。たとえ不合格になったとしても、自分が目指し頑張ってきた結果なら、その体験はその後必ず生きるし、生かしていくべきだと思っています。
私自身、浪人しても第1志望の大学に入れず、大学入学後もくすぶっていた時期がありました。でも、大学の授業は受けてみたら面白かった。受験のための勉強とは違い、時間をかけて考えたり調べたりする過程にワクワクしました。それまでは興味のなかった倫理や憲法などの一般教養科目も、一番前の席に座って一言一句聞き逃さないよう聞いたものです。
大学院に進むと、同じ研究室には優秀な先輩がいて、刺激を受けました。必死になればなるほど、彼には研究では勝てないと分かり、また卑屈になっていたとき、その先輩に言われたんです。「自分のためになるわけじゃないのに、なんでそんなに楽しそうに後輩に教えられるの?」って。教員になるか研究者になるか悩んでいた頃で、その一言に背中を押され、今に至ります。
本校は「社会に貢献する自立した女性の育成」をモットーにしています。
社会に貢献し、自立した存在になるためには、自分の考えを持ち、正しく表現すること、多様な知識を習得し、それらを活用して教養を深めることが肝要です。うまくやるより、試行錯誤を重ねながら得られた結果を受け止めて改善策を探ってほしい。本校の理科の授業で、伝統的に実験を重視している理由も、そこにあります。
勉強だけではありません。吉祥祭や運動会などの行事は、学年を超えて生徒が企画・運営する一大イベント。予期しない変化に対応する柔軟性を身につけるとともに、他の人の意見を理解して協働できるようにもなる格好の機会です。
「コロナ禍の中でも、どうにかして開催したい」と生徒から声があがり、その都度一丸となって最善を尽くしました。一昨年は、実施できそうな運動会の種目やルールを生徒が決め、1カ月半にわたって、平日の昼休みに細切れで競技を実施。そして連日、録画・編集した映像を校内で放映しました。棒を媒介にした非接触型のムカデ競走でタイムを競い合うなど、斬新なアイデアが挙がり面白かったです。昨年は更に一歩前進。平時のように6学年が集う壮大なものにこそなりませんでしたが、何回かに分けて、八王子と吉祥寺のキャンパスで開催し、盛り上がることができました。
一つのものを成し遂げようと、生徒たちが知恵を絞っている姿を見ていると、リーダーは、育てるものではなく、自然と生まれるのが正しいんだなと感じます。得意なことがそれぞれ違う者同士が集まっているから、先頭に立つ人、それを支える人が場面によってコロコロ変わる。人と交わるなかで、どんどん失敗したっていい。これこそが学校の醍醐(だいご)味です。
卒業するときに「この学校でよかった」と思えるようにするのは、皆さん自身です。目の前の受験はゴールではなく、そこから道は始まります。「何かを知りたい」という素直な欲求は、内側から芽生えてくるものですから。私たち教員はそんな皆さんを全力でサポートします。(聞き手・川口敦子)
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〈あかぬま・かずひろ〉1966年、東京都生まれ。都立日比谷高校、東京理科大卒。東京工業大大学院後期博士課程中退後、94年、吉祥女子の理科教員に。進路指導部長を経て、2021年から校長を務める。
★吉祥女子中学・高等学校
・所在地:東京都武蔵野市吉祥寺東町
・創立:1938年
・生徒数:中学795人、高校777人
・合格実績:東京大2人、京都大3人、東京工業大2人、一橋大7人、慶応義塾大44人、早稲田大80人
・長年にわたり、中学3年生を対象にカナダ語学体験ツアーを実施している(現在はコロナの影響で、実施学年を調整し再開を目指している)。放課後に教養を深める目的で、芸術や語学の課外授業を設けており、希望者は中学1年生から専門の先生に習うことができる。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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