一貫につき、5秒。
指ですくった水を、手のひらで包むようにはたき、手全体になじませる。鮮やかな手さばきで、赤みを帯びたキハダマグロが、左手のシャリに添えられる。仕上げにタレを一塗り。大ぶりなネタに光が反射し、きらりと輝いた。
創業110年の甲府市の老舗すし店「魚保(うおやす)」。名物はマグロなどに甘辛いタレを塗った「甲州にぎり」だ。砂糖やしょうゆで作る秘伝のタレは、とろりとネタに絡みつく。ほんのり甘いコシヒカリとの相性は抜群で箸が止まらなくなる。
「年末や祝いの席でマグロは必需品でした」。3代目店主の志村哲也さん(61)は話す。臭みを消すためにタレを塗ったマグロに、幼い頃から慣れ親しんできた。「東京のすしとは全く別物。食べると『これだ』って懐かしい気持ちになる」
山々に囲まれた「海なし県」の山梨だが、実は、日本屈指の「海鮮どころ」だ。総務省が昨年3月に公表した都道府県と政令指定市の家計調査によると、甲府市の1世帯あたりのマグロへの支出額は9379円で静岡市(1万2294円)に次いで全国2位。あさりは同1156円で1位。魚介加工品や魚介の漬物も軒並み上位に食い込む。2014年の「経済センサス」では、人口1千人あたりのすし店数で山梨県が全国1位だった。
なぜ山梨で魚の食文化が根付いたのか。
そこには山梨と静岡を結ぶ「一…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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