「ピーチライナーのラケットがなくなる」――。2月下旬、本社に読者から電話が寄せられた。「ラケット?」と疑問を抱きつつ、愛知県小牧市東部の丘陵地・桃花台ニュータウンへ向かうと、答えはすぐ見つかった。
集合住宅が並ぶ一帯に、クレーンや重機が並び、高さ20メートルほどの巨大構造物の撤去工事が始まっていた。旧桃花台新交通(ピーチライナー)の終着駅の「ループ線」だ。
6本の橋脚が支えて楕円(だえん)を描き、確かにテニスラケットのように見える。
「ニュータウンの見晴らしも良くなっていい」と近所の男性(64)は言う。ニュータウンに住んで35年以上だが、ピーチライナーに乗ったのは2、3回だった、とふり返る。「名古屋に向かうにも、不便だったからね……」
〈高架軌道上を走るゴムタイヤの電車で、騒音と振動が少なく、都市と近郊をむすぶ未来志向の乗り物〉
1991年3月25日、本紙夕刊1面で開業が報じられたピーチライナー。名古屋鉄道小牧線の小牧駅と、桃花台東駅間の7・4キロを結ぶ新交通システムだった。
巨額の公費で整備、撤去費用も県費で?
ループ線は、二つの終着駅にあり、車両が旋回するためにできた。県尾張建設事務所によると、ループ線の撤去が終わるのは、2025年度内の見込みだという。
県などによると、ピーチライナーは313億円かけて整備され、県や小牧市などが出資した第三セクターが運営した。だが、ニュータウンの計画人口は当初こそ5万4千人だったが、04年時点の実際の人口は約2万8千人だった。1日あたりの利用客数も開業時は5千人、将来的には1万2千人程度としたが、実際は約3500人にとどまった。
開業17年目で赤字を解消するはずが、開業から15年半、一度も黒字を出すことなく廃線に。愛知万博の翌年の06年だった。県や市の出資金や貸付金は焦げ付いた。
一時は再利用も検討されたが、高架などの維持管理費がかかることや、防災上の懸念から断念。15年度から、撤去工事が始まった。
問題は撤去費用の総額だ。工事が始まって8年経つが、撤去したのは全体の1割ほど。県尾張建設事務所によると、22年度までに県費で約38億円の撤去費がかかっているという。担当者は「長いスパンがかかる。具体的な数字は出せない」として、総額や完了時期については明言しなかった。(斉藤佑介)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル