東京都武蔵村山について調べていると、2002年4月の朝日新聞多摩版の記事が目についた。
《「かたくりの湯」でホッとして 武蔵村山 27日にオープン》
11億4千万円をかけ、街おこしのために市営温泉を作りましたという、短い記事だ。武蔵村山に温泉。そんなイメージはなかった。
市内に多く咲く紫の花から名前を取った温泉は、埼玉県所沢市と接する山のふもとの都立公園のすぐ近くにある。休日に訪れてみると、公園内のアスレチックで一汗かいて、そのまま温泉に向かう親子連れが多かった。170台を止められる駐車場には、多摩や八王子のほか、所沢や高崎といった都外のナンバーも目立っていた。
開業から20年ほどが経ち、すっかり街の憩いの場になったように見えるこの温泉。当時の関係者に話を聞いて驚いた。実は、掘削時に頓挫しかけていたというのだ。
目を付けた「大深度掘削」
観光資源にとぼしいとされる武蔵村山。悲願であるモノレール誘致のためにも、市の内外から人を呼び込める「目玉」を作りたい。そこで市が計画したのが、温泉掘削事業だった。
火山があるわけでもない武蔵村山で、なぜ温泉なのか。答えは温泉法にあった。温泉の条件として定められた基準は二つ。ひとつは、いわゆる「温泉成分」とされる特定の19項目の物質を一種類でも含んでいること。もうひとつは、源泉の温度が25度以上であること。どちらかを満たせばいい。
温泉は深さ数百メートルからくみ上げるのが一般的だが、近年の技術の進歩で、地中1千メートル以上まで掘る「大深度掘削」が増えていた。地球内部により近い「大深度」から水をくみ上げれば、「25度以上」を満たせるんじゃないか。そんな計算だった。
当時の市の建設課長として現場を仕切った比留間信男さん(75)の手元には、1997年に市が作成した「温泉補足探査委託報告書」がまだ残っている。掘削の場所を決めるためまとめた報告書には、こうある。「(温泉湧出(ゆうしゅつ)量は)周辺の掘削による温泉データから武蔵村山市の場合を推測すると、毎分80~150リットル程度と考えられる」
この推測が外れたのだ。地中…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル