漫才師から実力派若手俳優へ 前田旺志郎を導いたものは

 子役、漫才師として脚光を浴びた若き才能は今、実力派若手俳優・前田旺志郎(おうしろう、20)としてさらなる輝きを放っている。映画「キネマの神様」(6日公開予定)で山田洋次監督作品に初出演を果たす彼に、コロナ禍で苦境に立つ映画への思いや、「まえだまえだ」時代に感じていたこと、役者の道を歩むきっかけになった作品との出会いについて聞いた。

 ――「キネマの神様」への出演が決まったときはどんな気持ちでしたか?

 「やったー!」ですね(笑)。本当にうれしくて。山田洋次監督の作品にこの年齢で僕が出られるというのも、本当にまさかのことでしたし、キャストの皆さんも素敵な俳優さんばかりで、その中で自分が出演させていただけるというのは、本当にありがたいなぁと思いました。

〈キネマの神様〉ギャンブル好きで借金まみれのゴウ(沢田研二)は、妻の淑子(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)からも見放されたダメおやじ。だが、若き日のゴウ(菅田将暉)は映画の撮影所で助監督として働き、監督になる夢を追っていた。あれから約50年。ゴウの孫の勇太(前田旺志郎)が手に取ったのは、幻となったゴウの初監督作品「キネマの神様」の脚本だった……。

 ――前田さんは沢田研二さん演じる主人公のゴウの孫・勇太を演じています。台本を読んで、勇太にどんな印象を持ちましたか?

 僕が一番最初に思っていたのは、どちらかと言うと「普通の青年」という感じの印象だったのですが、実際に本読みをしてみて、山田監督からお話を聞く中で、どんどんキャラクターが変わっていきました。

 僕は「大学生ぐらいの年代の普通の男の子」だと思っていたのですが、(山田監督のイメージでは)どちらかと言うと暗めで、家にいることが多くて、という感じでした。キャラ設定は、実際に山田監督と話してだいぶ変わったところですね。

 ――山田監督からのディレクションはどういうものでしたか?

 監督は一つひとつのセリフの言い方、イントネーション、リズムなど、「音」にすごくこだわる方でした。僕は今回、山田監督作品に出演するのが初めてだったので、一つひとつ丁寧に「違う。そういう言い方じゃない。こうだ」というふうに、音で教えてくださるような感じでしたね。

 ――山田監督のイメージに合わせていくのは大変でしたか?

 そうですね。山田監督は常に常に更新されていく方で、「追いついた」と思ったら「また先に行っている」ということの繰り返しだったので、そこはすごく大変でした。

 ――山田監督の現場の雰囲気はいかがでしたか?

 なかなか経験できないような、すごく緊張感がある現場でした。撮り方自体も、何度も何度もテストを繰り返して、本番は1回で撮るという撮り方をされていました。

 テストの回数はシーンにもよりますが、5回のときもあれば、10回ぐらいやるときもありました。監督の中で全部が「よし、定まった」とならない限り本番に行かないので、テストの度にいろいろと微調整が入りました。

 そういう現場に参加したのは今回が初めてだったので、新しくて特殊な体験でした。

 ――沢田さんが演じるゴウと2人のシーンが多いですが、沢田さんの印象はどうでしたか?

 「すごく包容力がある方だな」と思いました。おじいちゃんと孫という関係性もあったと思うのですが、お芝居の中で「なんでも来いよ」という感じのオーラといいますか、優しさを感じましたね。

 ――今回の映画は、ダブル主演を務める予定だった志村けんさんが亡くなったり、コロナ禍による撮影中断や公開延期に見舞われたりと、数々の困難に直面してきました。そうした作品に参加したことで、どんなことを感じましたか?

 改めて新型コロナウイルスの恐ろしさを実感しました。人から話を聞いたりニュースで見たりすることはありましたが、実際に自分が関わった映画のキャストさんが亡くなられたり、映画自体も公開延期になったりというのは、なかなかつらいことでした。ウイルスというのは、どうしようもないと言えばどうしようもないものなので、そのもどかしさは肌で体感しました。

 ――「キネマの神様」が描いているのは、映画が大好きで、映画作りに全てをかける人たちの姿です。そして、困難な状況下でも「映画のともしびを消してはいけない」というメッセージが作品には込められていますね。

 今のご時世では、映画館、特にミニシアターは厳しい状況だと思います。それでも、やっぱり「映画を好きな人はたくさんいる」ということも、この映画を通してすごく感じました。俳優として、これからも映画を通して色んなことを伝えていきたいなと思います。

 ――前田さんにとって映画はどんな存在ですか?

 こうやって自分も映画に携わらせてもらっていることが本当にありがたいですし、映画を見ることでいろんなことを教えてもらって、感情を動かされているように、自分も何かを与えられる役者になっていきたいなと思います。これからもたくさんの映画を見て、映画に出て、長い付き合いをしていきたいです。

 ――前田さんの「映画との出会い」はどんなものでしたか?

 僕は小学生のとき、毎週末に…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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