北前船の船主集落として栄えた石川県輪島市門前町の黒島地区。板張りの壁や窓格子、黒い瓦屋根の家並みが特徴で、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された美しい町並みも、能登半島地震で大きな被害を受けた。
「今回は、だめやね」
黒島地区に住む角海(かどみ)弘さん(76)は、つぶやいた。
同地区は、輪島市中心部から南西に約20キロにある日本海沿いの集落。南北1キロほどの地域で、人口は約270人。江戸時代、幕府直轄の領土、天領となり、大阪と北海道を日本海回りで運航していた商船「北前船」の船首や乗組員が暮らす集落として栄えた。
集落中心部に、ひときわ激しく潰れた大きな建造物がある。国指定重要文化財「旧角海家住宅」だ。2007年3月の能登半島地震でも被災したが、その時はなんとか崩れず、一度解体した後に柱を増やすなど補強をして組み直した。
地震発生時、角海さんは同住宅の前を散歩していた。強い揺れに思わず地面に突っ伏した。自分の身を守るのに精いっぱいであまり覚えていないが、その時、同住宅は倒れずに持ちこたえていたという。
揺れが収まると、すぐに50メートルほど離れた自宅に戻った。家族と合流し、大津波警報が出ていたため高台へと向かった。同住宅前を再び通りかかるまで5分とかからなかったが、その時にはもう同住宅は潰れていた。音などは聞こえなかった。
「(前回の地震から)建て直したばかりなのに。もったいない」とショックを受けた。
高台からは、遠くに津波が見えた。
「暗い中で、白い波が連なっているのが見えた。ここまで来るかと怖かったが、来なかった」
地震の後、集落の沖合の波消しブロックは地盤が隆起してむき出しになり、海面だったところには砂地や岩肌が続いている。
地震発生から1カ月。生まれ育った自宅は応急危険度判定で「赤」と判定され、とても住める状態ではないという。
「ここはもう壊してもろて、小さな平屋でも建てて住めればいい。景観を残すのは、もう難しいかもしれない」
2月1日、角海さんは金沢に借りたマンションに2次避難した。(関田航)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル