10万5千人余りの死者を出した関東大震災から9月で99年。この震災は、地震そのものに起因する犠牲者が多かったばかりでなく、国の中央防災会議の報告書が特記事項の一つに挙げた「流言による被害の拡大」という側面もあった。デマに端を発した朝鮮人らに対する殺傷事件。震災100年目に入るいま、過去の悲劇とどう向き合うべきなのか。
「よーい、スタート」。8月20日、映画監督・森達也さん(66)のかけ声で、ある劇映画の撮影が始まった。かやぶきの古民家に、野菜を切る音が響く。大正時代の一般家庭の暮らしを再現した演技を、森さんは見つめた。
震災から100年となる来年の公開をめざしている映画の仮題は「福田村事件」。関東大震災の発生直後に起きた事件だ。森さんは約20年前、新聞記事で知った。テレビの特集で企画したが実現せず、長らく温めてきた。映画化にあたり、新たに研究者や被害者の親族を取材。オウム真理教のドキュメンタリー作品などで知られる森さんにとって「ずっと気になっていた。これまでのテーマとつながる予感があった」題材だという。
地震は1923年9月1日正午前に発生した。その後のデマと虐殺事件について、国の中央防災会議の報告書(2008年)は章を立てて振り返っている。
それによると、午後には警視庁が「朝鮮人が放火や暴行をした」などの流言を把握。2日午後から3日明け方をピークに広がった。信じ込んだ人々による朝鮮人への殺傷事件は、2日午後から発生。「武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行し、虐殺という表現が妥当する例が多かった」としている。加害側として、被災者や周辺住民も挙げている。
福田村事件は6日に起きた日本人に対する殺傷事件だ。報告書に記載はないが、香川の元高校教諭らによる生存者への聞き取りなどで明らかになった。千葉県福田村(現野田市)の利根川河畔で、香川県から来た被差別部落出身の行商団15人のうち、妊婦や幼児をふくむ9人が殺害された。聞き慣れない方言を話す一行が朝鮮人と間違われたとみられ、警察官に「日本人だ」と言われても納得しない自警団に猟銃や日本刀などで襲われたという。今年もその日には、現地で追悼式がある。
約100年前の加害者と重なる存在
森さんには、この事件をはじ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル