境内の古い平屋で2月上旬、年配の男性6人が茶色の繊維と格闘していた。
手にするのはシュロの皮。ほぐしたものを数十本ずつ束ね、ひねりながら編んでいく。
シュロは硬い。指先がこすれ、血がにじむこともある。でも「キュッと音がするまで締めんといかんと、井上先生は言うとった」。
福岡県朝倉市、美奈宜(みなぎ)神社おくんち保存会の荻野善美さん(78)が言う。
各地の伝統行事支える
美奈宜神社のおくんちで奉納される「蜷城(ひなしろ)の獅子舞」は、県の無形民俗文化財だ。獅子役は唐草模様の布ではなく、毛皮のようなシュロの蓑(みの)をかぶる。10年ほどで傷むと、氏子が地元のシュロで作りかえてきた。
だがシュロも、技をもつ人も、時代とともに減った。2001年に作りかえる時、宮司の内藤主税(ちから)さん(69)が我流でシュロの皮を縫いあわせてみたが、すぐ壊れた。
シュロでほうきを作る職人に相談に行った時、飾られた獅子蓑に魅せられた。表面は豪快なのに、裏面には繊細な編み目が並ぶ。「これが本物や」。直感した。
作者だという人の自宅を訪ねた。周辺地域の獅子蓑のほか、太宰府天満宮の「御田植祭」の蓑も手がける名人だという。
それが、朝倉市・松末(ますえ)に住む井上輝雄さんだった。
各地の伝統行事に欠かせない「シュロ蓑」。その製作技術を持つ人は今、ほとんどいません。地域のきずなを支えてきた、ある名人の技は、どのように引き継がれたのでしょうか。
蓑を作りかえてもらったのを…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル