一部の不届き者による、交通ルールを無視した危険な運転が「ご当地走り」として各地で横行している。事故を引き起こす可能性があるため、地元警察などはルール厳守を呼びかけるが、撲滅はなかなか難しい。秋の行楽シーズンの運転でも、注意が必要だ。
茨城ダッシュ
「『茨城ダッシュ』は交通違反です」――。茨城県警は、ホームページやX(旧ツイッター)でこう訴え、交通マナー向上のため、撲滅を重要課題の一つと位置づける。
停止中の車が青信号に変わった瞬間に「猛ダッシュ」で対向直進車よりも先に右折▽青信号に変わる直前に信号無視をして突進する、といった運転を指す。なぜマナーの悪い運転が横行しているのか。
茨城県警交通指導課の小高正路理事官は「これといった原因を特定するのは難しい」と話す。それでもヒントになるのは、県内にある道路総延長から未使用分などを除いた実延長で、茨城は北海道に次ぐ全国2位の5万5656キロ。「車社会」なのが遠因の可能性がある。
日本自動車連盟(JAF)の2023年の全国調査では、信号機がない横断歩道を「歩行者が渡ろうとしている場面で一時停止した車」は、茨城は27・6%と、全国平均の45・1%を大きく下回り、ワースト5位だった。
22年に茨城県が実施した県民対象の「治安に関する意識調査」では、治安が「悪い」「やや悪い」と回答した主な理由は、「交通マナーが悪い人が多いから」が62・3%と最多だった。
茨城ダッシュは法律に触れる可能性があると、茨城県警は警告している。
交差点の信号が青だったとしても、対向直進車や左折車の進行を妨害する行為は、道路交通法における「交差点優先車妨害」。急いで右折したいがために交差点中心を徐行しない行為は「交差点右左折方法違反」にあたる。右折した先の横断歩道を渡っていたり、渡ろうとしたりしている歩行者を妨害すると「横断歩行者等妨害」となる。まだ赤信号なのに、交差点を右折するのはもちろん、「信号無視」だ。
茨城県警が今年1~9月末までに認知した違反件数は、「交差点優先車妨害」が9件(前年同期比7件増)、「交差点右左折方法違反」が105件(同1件増)、「横断歩行者等妨害」が2935件(同1129件増)、「信号無視」が1308件(同177件減)だった。
名古屋走り
年間の交通事故死者数が18年まで16年連続で全国ワーストだった愛知県。この不名誉な状況が続いていた間、県議会では要因の一つとして名古屋市周辺でみられる、「名古屋走(ばし)り」が何度もやり玉に挙げられた。
当時の県警側の答弁によれば、黄信号で無理に交差点へ進入する▽進路変更時にウィンカーを出さない▽強引に割り込むなどの運転を指す。
名古屋市で道路面積が占める割合は、政令指定都市で最大の約18%。市中心部には幅約100メートルの道路が2本あり、場所によっては片側4車線ある。直線的で広い道路が多い道路事情がこうした乱暴な運転が横行する原因だとの見方もある。
名古屋走りは「信号無視」「通行区分違反」といった法令違反に当たり、県警は取り締まりを強化してきた。県と連携して交通モラル向上の取り組みも進め、19年に全国ワーストの汚名は返上した。
だが、依然として交通事故死者数は高い水準にある。なぜか。記者が10月16日に1時間、名古屋市中心部の幹線道路の交差点付近で観測した。その結果、赤信号なのに交差点に進入した車を20台、ウィンカーを出さずに進路変更した車を42台確認した。名古屋走りは姿を消したとは言えないようだ。
県警幹部は「名古屋走りに限らず、安全を脅かす法令違反には厳しく対処する」と話す。
伊予の早曲がり
愛媛県でも交差点の右折時、対向車が接近しているのに先に右折する行為が「伊予の早曲がり」と呼ばれる。特に青信号になった瞬間に、直進する対向車を遮るように、先に右折する運転を指す。
伊予の早曲がりという言葉自体は、いつごろから使われ始めたのか。
県警の担当課は「わからない」という回答だったが、県の広報紙「えひめ交通安全のひろば」の04年6月号に「『伊予の早曲がり』をやめよう」という記述があった。朝日新聞の記事データベースでも1997年1月には登場している。少なくとも25年ほど前には、県民に認知されていたとみられる。
県警によると、道路交通法の交差点右左折方法違反や交差点優先車妨害などにあたる。対向車にドライバーの注意が集中することで、横断歩道を渡る歩行者を見落としたり、右折を急いで車のスピードが上がることで、重大事故につながったりする危険があるという。
県警は県内の交通事故の約半数が交差点で発生していることを踏まえ、交差点での違反行為の取り締まりを強化している。早瀬直樹交通部長は「交通ルールの順守は当然だが、加えて交通マナーを向上させないと事故は減らないと思う」と話す。
昨年は「いけんよ!! “伊予の早曲がり”は危険な交通違反です!」と記したビラを作成。現在もドライバーに配布するなどして、違反をしないよう呼びかけている。
佐賀のよかろうもん運転
佐賀県では自分本位な運転が横行しているとして2018年10月、これらを「佐賀のよかろうもん運転」と名付けた。車間距離を詰める▽信号を守らない▽携帯電話を使う▽右左折の合図を出さない――の4類型。県警は年4回ある交通安全県民運動や交通安全教室などの取り組みを通じて自らを戒めてもらいたいという。
県警によると、昨年1年間に県内で発生した人身事故3238件のうち追突事故は1396件で43・1%を占めた。全国平均より10ポイント超高く、よかろうもん運転に起因している可能性があるという。県警の担当者は「引き続き緊張感を持った運転をしてもらうよう呼びかけていきたい」と話した。(宮廻潤子、米田怜央、中川壮、中野浩至)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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