2019年10月、長野市長沼地区の一帯は台風19号(東日本台風)による千曲川の堤防決壊であふれ出た濁流にのみ込まれた。被災から8カ月がたった翌年6月、前島勝之さん(56)は浸水した同地区の赤沼区にある実家の解体に向け、業者と現場で打ち合わせをしていた。住居と、かつて食品店の店舗だった建物を全て取り壊すと両親ときょうだい3人で決めていた。
ところが、その場で父親が突然切り出した。
「あそこだけは残してくれないかな」
基礎が別になっていた住居の一部、風呂場や台所、トイレがある一角だけを残してほしい、というのだった。前島さんは「やっぱり少しでも残したいんだな」と思った。
家に残った水の跡は床上1.6メートル
東日本台風は19年10月12日から長野県内にも大雨をもたらした。13日未明、長沼地区で千曲川沿いの堤防が決壊した。
市内の別の地区に暮らす前島さんは12日夜、両親が住む実家を訪れていた。運転免許を返納し、移動手段がない両親を心配してのことだった。
赤沼区では1983年にも堤防から水があふれる水害があった。あの時、大事な家財道具を全て2階に移動させたが、堤防を越えた水は床下に達しただけだった。「今回も床下(浸水)くらいかな」。そう思って特に対策はとらなかった。
ところが今回は堤防が決壊し、濁流が地区をのみ込んだ。
決壊前、近くの親戚宅に立ち…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment