記者の父が81歳で世を去り、家の歴史を担った多くの物が残された。母に先立たれて4年、都内の一戸建てに住んでいた。どこの家庭でも遺品整理は気が重い作業だろうが、我が家の場合とりわけ難題だったのが、父がむかし買った現代美術の絵画作品の処分だ。途方に暮れた私を助けてくれたのは、北海道東部の小さな美術館「置戸ぽっぽ絵画館」だった。
捨てがたい遺品
父が他界したのは2018年2月。のどのがんが原因で髄膜炎を発症、人事不省のまま入院していた。かつて6人家族が暮らし、主をなくした屋敷は散らかり放題だった。本やオーディオ、ピアノは古物商らに引き取られたが、困ったのが父が約30年前に交際していたという画家本人から購入した、3枚1組の大きな抽象画だった。
実家は更地にして売却することが決まり、私たち子供の家には飾れる場所がない。画商に売却を打診したが、「流通性がない」と断られた。近年まで父と同居していた弟は「作者は亡くなったと聞いた」という。電話番号簿に残っていた連絡先に電話したが「現在使われていません」だった。
困惑の中で思い出したのが、以前小耳に挟んだ「寄贈された絵だけを集めた、全国的にも珍しい美術館が北海道置戸(おけと)町にある」という話だ。翌19年、私自身が東京から札幌へ5月10日付で異動することが内定。何かの縁を感じ、思い切って連絡した。「うちの絵、もらっていただけませんか?」
それが「置戸ぽっぽ絵画館」だった。
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道東の小さな美術館をめぐる物語。記事後半、ある事実が記者を驚かせます。
立派だった廃駅
「ぽっぽ」の名は、廃止された旧置戸駅の建物を利用していることに由来する。12年に開設され、館内に約270点を展示。町内の廃校の体育館を収蔵庫に活用し、収蔵作品総計は800点を超えるという。窓口となっている都内の画廊に絵を持ち込んで審査を依頼。幸い受け入れていただけることになり、19年3月に北海道に送った。
絵画館によると、運営はボラン…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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