寄稿 マイケル・エメリック(日本文学者、翻訳家)
先月発売の文芸春秋に掲載された村上春樹氏による特別寄稿「猫を棄(す)てる――父親について語るときに僕の語ること」が大きな反響を呼んでいる。
公の場を避け、自分のプライバシーを懸命に守ってきた作家が、冒頭に謳(うた)われるよう、「自らのルーツを初めて綴(つづ)った」という意味で読者が惹(ひ)きつけられるのも無理はない。ましてや戦時中に三回も召集された父親の従軍経験への言及、特に最初に入隊した部隊が「捕虜にした中国兵を処刑した」という衝撃の告白、それを低学年で聞かされた村上氏がひどくショックを受けたことなどは、村上文学の読者なら、腑(ふ)に落ちるところがあるのではないだろうか。最新の長編小説『騎士団長殺し』に語られる「上官に日本刀を手渡されて、これで捕虜の首を切れと命令される」雨田継彦の戦争体験は村上氏の語る父親の人生とずれながら重なっている。これがもっとも顕著な例だが、注意して読むと『風の歌を聴け』といった初期の作品からも、中国と、対中戦争への関心が窺(うかが)える。
このエッセイでは、父親との関…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル