夫妻はいま、悩みの中にいる。
夕暮れ時、西武新宿線武蔵関駅の駅前商店街を抜けた先に、ガラス戸から明かりがもれる店がある。フルオーダーで額縁を作る「アート・ヤマモト」(東京都練馬区関町北)だ。
「縁は白にできますか」。そう尋ねる女性客が持参した風景画を見て、山本律子さん(71)が額縁の素材を手際よく選んでいく。2月に東京を離れる女性の予定に合わせ、納期を早めた注文票を手渡すと、女性は笑顔で店を出ていった。店の奥にいる夫の隆志さん(76)は、額縁を組み立てる手を休めない。
隆志さんは元システムエンジニア。知人の額縁屋の仕事ぶりを見て、1980年ごろ脱サラした。最初は額縁や画材の卸しを始め、次第に自分たちで額縁を作るようになった。
持ち込まれた作品を見ながら、作家の希望を聞き、フレームや作品を囲むマットを選ぶ。手のひらに収まるミニチュアから2メートルを越えるものまで大きさは様々。図面引きや組み立てを隆志さん、仕上げは律子さんが担ってきた。
バブル期は注文が殺到した。午前2時まで仕事をして、2千万円ほど売り上げた月もある。「集中して働き、週2、3日は釣りへ行った。いい時代だった」
額縁作りは独学だ。注文を受けると、フレームの木材を裁断する。木の種類ごとに経年による収縮度合いが違うので、経験を頼りに「紙1枚」の厚さレベルで角度を調整する。木材に接着剤をつけ、1日寝かせると段差がなくなるという。
その後、作品を囲むマットを選ぶ。色や質感、幅によって絵の見え方も変わる。律子さんは「お客さんがどう見せたいかが大事。注文を受ける時にしっかり聞き取る」。
サイズや注文内容で価格は変わるが、「大体、一つ2万円以内」。メーカーの価格表を見て、より求めやすい料金を心がけてきた。
著名な画家の注文も受けるが、特別と思った仕事は一つもない。「どれも真剣に作っているから」。定型の四角だけでなく、音符や電車、教会など、作っていて楽しくなる特殊な型の注文は、腕が鳴った。そうやって、2人で42年間、店を切り盛りしてきた。
だが、コロナ禍で経営は苦しくなるばかりだ。客が1人も来ない週もあった。2人で話し合い、店舗の契約更新にあわせ、今年5月で店を閉めることにした。
閉店の知らせを聞き、テンペ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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