現代アート、くすぶる分断の火種 「不自由展」から3年の国際芸術祭

 〈放射能が降っています。静かな夜です。〉

 7月30日に開幕した国際芸術祭「あいち2022」。福島市の詩人和合亮一さん(53)の「詩の礫(つぶて)」が展示されている。

 東日本大震災のさなかにツイッターに投稿し、注目を集めた詩だ。ほかの作者の作品も観客に撮影・投稿してもらい、SNS上のやりとりや反応を会場に映し出す企画もある。

 前回の「あいちトリエンナーレ2019」では、企画展「表現の不自由展・その後」の展示内容がSNSに投稿されて炎上。脅迫事件に発展した。

 だが今回、和合さんに、運営側からのブレーキは「一切なかった」という。「自分も超現実の詩だけを書いてきたが、震災で書き方が変わった。現実に言葉を向け、社会にコミットしながら作りたい」と語る。

電凸対策、今回も

 3年前、「不自由展」で展示された、慰安婦を表現した少女像や、昭和天皇を含む肖像群が燃える映像作品などをめぐり、抗議が1万件を超えた。

 「手を引け」「お宅はスポンサーか」。協賛企業だった名古屋市の「近藤産興」の近藤成章社長(88)は、自ら取った受話器で、電話による攻撃(電凸(とつ))を受けた。「いきなりまくしたてられたので、怒鳴り返した」

 表現の自由。政治とアート。さまざまな議論を呼んだ。アーティスト自身が苦情電話を受け、対話を試みる動きもあった。

 検証のために県が設置した第三者委員会は、展示の説明不足など、運営側の課題を挙げつつ、「社会の二極化や分断の進行」があらわになったと指摘した。

 そして今回の芸術祭。2010年の初回から掲げてきた、「3年に1度」を意味する「トリエンナーレ」の文字が名称から消えた。事務局の代表電話にかけると、「時間が10分になったところで自動的に電話が切れます」とメッセージが流れる。会話も録音される。長時間の抗議や電凸が相次いだ前回の対策が引き継がれていた。

自治体に警戒感

 今回、支援組織の会長を務める大村秀章愛知県知事は「安心安全な芸術祭」「最高レベルの現代アートの祭典」を強調する。

 スポンサー集めに奔走した組織委員会の職員は、訪問先の企業や団体で「前回のようなことはありません」と繰り返した。だが、前回の協賛・協力先から「考えさせて」「名前は出されちゃ困る」と渋られることもあった。

 芸術祭ホームページによると、協賛・協力した企業・団体数は29日現在で120余りで、前回並みだ。ただ、前回は名を連ねていたトヨタ自動車、三菱UFJ銀行、JR東海などの社名はない。3社の広報は取材に「コメントは控えたい」「相手もあること。お答えできない」などとした。

 匿名で協賛した、ある業界団体の担当者は言う。「前回、電凸を受けた。今回もチケット購入などで協力はするが、名前は出さない」

 自治体にも警戒が広がる。

 名古屋市とともに芸術祭の会場となった一宮市は、あらかじめ組織委側に懸念を伝えたという。担当者は「反対や抗議を寄せられることが想定される作品や企画がないかを確認した」。不自由展で起きた一連の出来事の影響を心配したという。「安全安心を確保することは至極当然。今回は慎重に対応していただいていると思う」

 各自治体の会場には民間施設もある。予期しない抗議が起きれば本業に影響が及ぶ可能性もある。ある会場の関係者は、こんな注文を付けた。

 「我々がアートと判断できない場合は、展示を取りやめる」

「あいち2022」開幕

国際芸術祭「あいち2022」が30日、名古屋市、愛知県常滑市、一宮市の4エリアで開幕しました。前回の「あいちトリエンナーレ」から3年。余波は各地に広がり、芸術祭の構想そのものが揺れる自治体もあります。分断を越えて、芸術は人と社会を切り結ぶことができるのでしょうか。

 ドイツ中部のカッセルで騒動が起きている。

 6月に開幕した、世界的に有名な国際芸術祭「ドクメンタ」。その展示作品の中に、反ユダヤ主義とされるモチーフがあるとの批判が巻き起こった。

 作品は数日で撤去された。文…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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