群馬と長野の県境にそびえる浅間山(2568メートル)とともに生きてきた。
芥川賞も受賞した作家の南木佳士(なぎけいし)さん(72)は、北麓(ほくろく)の群馬県嬬恋村に育った。医師になり、南麓の長野県佐久市の病院で働きながら、生と死を見つめる小説や随筆を発表してきた。「山を下りて帰るところが見えてきた」。晩年に近づき、思いは故郷へと向かう。
代表作の「阿弥陀堂だより」(1995年)は、患者の死を看(み)取りすぎて心を病んだ女性医師が、作家として行き詰まっている夫と、夫の故郷の山村に戻る物語。村の先祖をまつる阿弥陀堂で暮らすおうめ婆(ばあ)さん、難病で声が出せない娘らと出会い、心身を癒やしていく。
畑にはなんでも植えてあります。ナス、キュウリ、トマト、カボチャ、スイカ、……。そのとき体が欲しがるものを好きなように食べてきました。質素なものばかり食べていたのが長寿につながったのだとしたら、それはお金がなかったからできたのです。貧乏はありがたいことです。
作中、村の広報紙の「阿弥陀堂だより」というコーナーで、自然とともに生きてきたおうめ婆さんの暮らしや死生観が紹介される。
南木佳士
なぎ・けいし 本名・霜田哲夫。1951年、群馬県嬬恋村生まれ。秋田大医学部卒業後、故郷に近い長野県佐久市の佐久総合病院で研修し、内科医として勤務。81年、難民医療日本チームの一員としてタイ・カンボジア国境に赴く。同年、「破水」で文学界新人賞。89年、「ダイヤモンドダスト」で芥川賞
「生きていく人のしぶとさを書いておきたい」
九十六年の人生の中では体の…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル