自分で作った動画を世界中の人と共有できるYouTube(ユーチューブ)。配信する人を指す「ユーチューバー」は子どもが憧れる職業の一つにもなったが、どんなふうに仕事をしているのか。「教育系ユーチューバー」の葉一(はいち)さん(35)=群馬県高崎市=を訪ねた。
記事の後半では葉一さんのインタビューをご覧いただけます。
「ハイそれじゃあ、よろしくお願いします」
自宅の一室で、葉一さんがいつものかけ声で授業の撮影を始めた。ホワイトボードを前に、この日のテーマ「高校数Ⅲ 区分求積法」を説く。声の大きさと、熱っぽく語る口調に圧倒される。
その葉一さんを見つめるのは、記者とビデオカメラだけ。だがカメラの向こうにいる「生徒」――葉一さんの動画チャンネル「とある男が授業をしてみた」をお気に入りとして自分のスマートフォンなどで登録している人は、100万人を超す。
ほかの仕事道具はピンマイクとノートパソコンだけ。「スマホ一つでも簡単に始められるのが魅力。私も『やってみよう』と思った次の日に初めて投稿しました」。2012年に始め、主に中学1年から高校3年までの数学や理科、英語、社会など約3400本を配信してきた。
ユーチューバーになる前は3年ほど塾講師をしていた。だがお金の事情で入塾を諦めたり、夏期講習に参加できなかったりする子どもに接し「学びたい子が無料で勉強できる方法はないか」と悩んで退職。行き着いた手段がユーチューバーだったという。
3年経っても収入は…
観察していると、人気を支える細かな気配りがわかってきた。ホワイトボードの文字は動画で見た印象よりも小さく、余白も多い。「小さい方がきれいに書けるし、映らない部分は必要ないので」。服はなるべく地味な色を選び、時計や指輪も外す。「大事なのは勉強しようとする視聴者の集中を切らさないこと。余計なものは映らないようにしています」
当初は学校の授業のように撮影中に板書していたが、間延びしないようにあらかじめ書いておく方式に。視聴者が分からないところだけを勉強してもらえるようにと、一つのテーマで10分程度に収める。投稿頻度は3日に1度ほど。定期的に更新することで視聴者を飽きさせないためだ。時には「歌ってみた」や別のユーチューバーとの対談など、授業以外の動画も。「学校の先生が雑談するイメージ」で、視聴者との距離を縮める狙いだ。
撮影が終わると編集作業にとりかかる。音声を胸元のピンマイクで別に収録するのは「きれいな音の方が聞いていて疲れないから」という。ユーチューブの画面上で表紙になる「サムネイル」を作成すれば完成だ。「私の場合は編集が少ないので、作業は大体3時間ほどで終わります」
どうやって収入を得ているのか。直近12カ月以内に投稿した動画の総再生時間が4千時間以上、チャンネル登録者数が千人以上などの要件を満たして「パートナープログラム」に参加することが条件で、なかでも最も一般的な方法は広告収入だ。ユーチューブを傘下に持つグーグルは、ユーチューバーに渡る広告収入の計算方法を公表していないが、動画の再生回数や視聴時間、内容など様々な要素で決まるとされる。
このほかにも動画をライブ配信する際に、視聴者からコメントを通して支援を受けることができる「スーパーチャット」、ファンクラブのように有料会員を設け、限定動画を配信する「チャンネルメンバーシップ」など収入を得る方法は様々だ。
ただ、手軽に投稿できるからこそライバルも多い。専業で生活を支えることができるユーチューバーはほんの一握りだ。葉一さんは「2年目までは収入を見るのも怖かった。3年目になってようやく『ゆくゆくは仕事にできるかも』と思えたが、それでも塾講師時代の収入の方がはるかに多かった」と振り返る。
参ってしまうユーチューバーも
世界中に届くインターネットだからこそ、注意も要る。投稿後に動画を削除しても、あらゆる動画を保存して「炎上」させるのを目的にしている人もいるという。「一度世に出したら回収できないかもしれない」と葉一さん。
近所での撮影や、自宅内でも窓の外の景色で家が特定される可能性がある。法律違反はもちろん、他人を傷つける発言なども視聴者を不快にさせるだけでなく、投稿者自身への攻撃につながる場合もある。未成年が投稿するときは必ず事前に保護者がチェックしたほうがいいそうだ。
ユーチューブには生放送の機能もあるが、編集作業が不要というメリットがある半面、失言や想定外のものが映り込んでしまうリスクもあり、葉一さんも最初は収録して、中身を吟味することを勧める。
動画には批判的な言葉が届くことも多い。「視聴者がどれだけ増えても、そういう言葉は必ず目に留まる」と葉一さん。精神的に参ってしまうユーチューバーも少なくない。「華やかに見られがちだが、つらいことも当然ある。ただ、面白い仕事です」
「受験に合格しました」という学生の声や「休みがちだった子どもが動画で勉強して授業に追いつき、学校に通えるようになった」という保護者の声も届く。塾講師を退職したときに描いた夢が、形になりつつある。(浜田知宏)
拡大するチャンネル登録者数100万人達成の記念盾を持つ葉一さん
「学びたい」って思う気持ちに応えてあげられない
葉一さんに、ユーチューバーになったきっかけや、仕事に対する思いを聞きました。
1985年生まれ、群馬県育ち。大学卒業後、塾講師を経て2012年6月からユーチューブチャンネル「とある男が授業をしてみた」を配信。主に中1~高3の数学や理科、社会、英語などの授業動画を配信。チャンネル登録者数は100万人を超える。
――ユーチューブを始める前は塾講師をされていたそうですね
はい。といっても、その前に紆…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル