ケースワーカーが支援すべき生活保護の受給者から脅され、受給者が死亡させた女性の遺体を遺棄した事件の判決が3月、京都地裁であった。死体遺棄罪で有罪判決を言い渡されたのは、京都府向日市の男性職員(30)。法廷では、担当していた受給者に日常的に脅され、従属関係に陥った恐怖の日々が明らかになった。
■できあがる主従関係
平成27年からケースワーカーとして勤務していた職員は30年1月から受給者の男(56)=傷害致死罪などで起訴済み=を担当。被告人質問などによると、男は同年11月ごろから毎日、職員あての電話を市役所にかけ、「買い物の荷物を公用車で送り届けろ」などの不当要求を繰り返していた。電話は毎回数時間におよび、職員は電話が鳴るだけで動悸(どうき)が激しくなり、不眠が3日間続くほどの状態になった。異動も希望したが、かなわなかった。
職員が恐れたのは男の過去だ。女性を死なせた傷害致死罪の前科が2件あり、暴力団との関わりもほのめかす男に恐怖を覚え、現金100万円を脅し取られたことも。こうして次第に主従関係ができあがった。
不適切な関係性に拍車をかけたのが、市の不十分な対応だ。男からかかってきた電話に上司が代わって出ることもあったが、注意ではなく「(職員の)対応が至らずすみません」と謝罪。最終的には、「職員には俺から指導する」と男に言われ、職員に電話を戻すことが常態化し、職員は失望していったという。
■犯行の発覚
令和元年6月1日、男に呼び出された職員は男の自宅アパートの一室に赴いた。そこで倒れていたのは、男と同居していた交際相手の女性=当時(43)。男から暴力を受け、亡くなっていた。
「協力しなかったら口封じのためにお前を殺す」。遺体を前に、男は職員を脅迫。職員は「言うことを聞かなければ恐ろしい目に遭う」と考え、男とともに遺体をシートにくるんで大型冷凍庫に入れた。
さらに男から「断ったらお前の家に遺体を持っていく」と脅された職員は、アパートの2階に死体を遺棄するための部屋を借り、業者にこの部屋へ冷凍庫を運ばせた。同月11日には異臭を知らせる通報で警察官が来たことから、アパート駐車場に死体を遺棄。これにより一連の犯行が発覚することになる。
■検証委「市の責任重大」
公判で弁護側は「1人で抱え込まされ、精神的に疲弊していた。恐怖から強い従属関係にあり、正常な判断ができなかった」と主張。職員も「毅然(きぜん)と対応すべきだと考えていたが、上司に相談する気力もなくなり、自分を責めるようになった」と明かし、「なぜ正しいことをできなかったのかと、後悔と反省の気持ちでいっぱいです」とうなだれた。
半年間にわたり開かれた公判には、他の自治体のケースワーカーらも多く詰めかけた。「ひとごとではない」「明日はわが身」。受給者から粗暴な言動を受ける経験をした人もおり、地裁には寛大な判決を求める嘆願書が約1万筆も集まった。
迎えた3月26日の判決公判。京都地裁は「非難は免れない」と指摘した一方、周囲の協力も得られず孤立していた状況を考慮し、懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。裁判官は「いろいろ苦しい面があったと思います。今後はこのようなことがないようにしてください」と語りかけた。
判決で職員への協力がなかったと指弾された向日市は同日、事件に関する検証委員会の検証結果を公表。委員長を務めた関西国際大の道中隆教授(社会保障論)は、上司らが組織として必要な配慮や指示、指導を行わなかったとした上で、「生活保護制度の根幹が揺らぎかねず、市の責任は重い」と厳しく非難。安田守市長は「市の対応が不十分で、職員を守りきれなかった」と謝罪した。職員は事件発覚直後に退職を願い出たが、市はこれを保留、現在、上司も含めた処分を検討している。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース