2019年に91歳で亡くなった作家の田辺聖子さんが終戦前後に記していた日記が『田辺聖子 十八歳の日の記録』として単行本にまとまった。友人たちとの穏やかなやりとりから、空襲に焼けた街の風景まで、心情を織り交ぜて書き残していた。日記からは4編の未発表小説が見つかり、あわせて収録している。12月3日に文芸春秋から発売される。解説を担当したノンフィクション作家の梯久美子さんに聞いた。
「十八歳の日の記録」と記されたノートは1945年4月に始まり、47年3月で終わる。兵庫県伊丹市の自宅を整理していた親族が見つけた。戦争の記憶をとどめる日記を多くの人に読んでほしいという遺族の希望で書籍化したという。
短編は日記の合間に書かれていた。「蒙古高原の少女」(45年4月の日記に記載)、「公子クユクの死」(同5月)、「或(あ)る男の生涯」(同6月)の3編は数ページの短編で、ファンタジー性が強い。
45年12月から46年1月の間に書かれた無題の中編は約60ページ。文学論を交わしたり、教師に恋したり、女子専門学校国文科を舞台に等身大の女子学生が生き生きと描かれ、空襲で焼けた跡に主人公がたたずむ場面で未完に終わっている。
梯さんは、この中編が父を亡…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル