夏にしてはいやに涼しかった気がする。横浜に住んでいた小学2年の時、初めて1人で美容院へ行った。
「どんな感じにしますか?」
「広末涼子みたいにしてください」
「いやあの子、女の人やで」
私はうまく返事ができず、黙っていた。髪は思い描いたものより短くなった。
記者になって5年目の私(26)は、昨年10月からワンピースを着て生活しはじめた。休日や平日の夜だけだ。
ワンピースを着たい。堂々と。
その思いを抱き続けてきた。
この世の中には、いろいろな性のありかたがある。
仕事で同性婚をめぐる訴訟も取材してきた。当事者たちは偏見にさらされながら、「愛する人と結婚したい」という思いを遂げるために公開の法廷で闘っている。
ワンピースを着る勇気がわいたのは、家族も旧友もいない、200万人都市の札幌なら周囲の目におびえなくてすむと思ったからかもしれない。
裁判の傍聴や、イベントの取材を通してトランスジェンダーの当事者と接した経験も背中を押した。
私がこれから書くことは、とても個人的なことだ。それに、例えば一口に「当事者」といっても、その一人ひとりによって、立場や歩んできた人生は違うだろう。私が様々な意味で「例外」である可能性もある。
それでも、私がワンピースを着て街を歩いて見えた世界のことを伝えることには意味がある、と信じて書くことにした。
声変わりに気づいた夜
社会は、人を「男」「女」の…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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