「森友問題」を追う 記者たちが探った真実②
国有地が大幅に値引きして売られた森友学園問題で、朝日新聞が第1報を報じたのは2017年2月9日だった。その後、政府側は国会で野党から追及されていくことになった。
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国会で政府側として主に答弁に立ったのは、財務省の土地取引担当のトップである佐川宜寿・理財局長(当時)だった。隣の土地の10分の1の価格で売られていた理由についてこう答えた。
「この土地にはごみがたくさん埋まっていて、その撤去費用にお金がかかる」
「もともと鑑定価格は9億5600万円だったが、ごみの撤去費用に8億円あまりかかる。その撤去費用を差し引いて、1億3400万円になった」
本当に8億円も撤去費用がかかるのだろうか。このごみの量の積算については、後に会計検査院が「根拠が不十分」と指摘した。
そして2月17日、安倍晋三首相の口から飛び出したのが、あの答弁だ。
「私や妻がこの土地取引に関係していれば、首相も国会議員もやめる」
「神風が吹いた」 驚きの証言
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断言だった。野党の追及は勢いを増した。
国会では、もう1人の当事者、森友学園の籠池泰典理事長(当時)の証人喚問が行われた。偽証をすると罪になるという重い場で、籠池氏はこの大幅値引きについて驚きの証言をする。
「神風が吹いた」
この取引の間に、籠池氏は安倍氏の妻の昭恵氏側に相談していた。昭恵氏の秘書のような役割をしている政府の職員が、この土地取引について財務省に問い合わせをしていたという。
「昭恵さんの名前で物事が動いたんだろう」
籠池氏はこんな見方を示した。野党側は、財務省が昭恵氏の存在、また安倍氏に忖度(そんたく)して値引きをしたんじゃないか、という追及をさらに強めていくことになった。
「少なくとも通常ではない取引だったんじゃないか」
その謎を解くべく、朝日新聞は大阪・東京の社会部で合同の取材班をつくった。東京の社会部は国会や財務省周辺、大阪の社会部は森友学園や土地取引に関わった関係者らを取材していくという役割分担。当時東京社会部でこの取材班を仕切った羽根和人デスクはこう振り返る。
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浮上した改ざん ひょっとして財務省が?
「薄皮をむくような感じで事実を積み重ねていかなければいけないなと思っていた」
取材を進める中で、まずはこの土地取引が「特例」というふうに財務省では言われていたことが分かった。
また、通常の国有地売却は一括払いが基本にもかかわらず、この土地の場合は異例の分割払いを認めていることも明らかになった。
そうした取材の中で、ある疑いが浮上した。
「財務省が公文書を改ざんしたのではないか」
公文書は民主主義の基本だ。公文書を元に国会審議が行われ、行政は全て公文書で動いている。それを改ざんするということは、行政をゆがめ、国民にうそをつくことと同義と言える。
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財務省は、国の中枢を担う「省庁の中の省庁」といわれる。その財務省が本当にその公文書を改ざんするのだろうか。
国会答弁に立っていた佐川氏の態度はかたくなで、説明に消極的だった。その姿勢の不自然さを考え、「改ざんはひょっとしてあり得ない話でもないと思った」と羽根デスクは言う。
取材班はこの後、解明のために、この土地取引に関する膨大な資料と向き合うことになる。どの文書のどの部分が、どう改ざんされたのかを特定する、根気のいる作業だった。
さらに取材を進め、改ざんされたことを証明するだけの材料がそろった。取材で得た情報を、財務省に直接「当て」にいくという段階にまで至った。
◇
朝日新聞が改ざんの情報をつかんだ経緯や根拠について、羽根は「一定程度説明責任はある。一方でニュースソースは守らなければいけないし、何を判断材料にしたのかは、言えないものもある。情報源を秘匿できないのならば、ジャーナリズムが成り立たない」と話す。
情報源が分かれば、政府の犯人捜しが始まったり、その人の身に危険が起きたり、処分されたり、ということが起こりうるからだ。これは朝日新聞だけではなくて、全てのメディアがそうしている不文律だ。
朝日新聞は政権に批判的だからそういうあら探しをしているんじゃないか、との疑念もぶつけられるが、羽根はこうも言う。
「最初から疑いを持ってやっているわけでなくて、いろいろな事実、情報が出てくる中で、疑問が出てきたから、取材をする。イデオロギーのようなものはむしろ報道の邪魔で、色眼鏡で見ると、真実は見えなくなるんですね。そういったものは極力排して、事実を公平な目で見ることをしないと、特に調査報道は成り立たない」(聞き手・神田大介、構成・岸上渉)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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