取り調べの立ち会いも議論の対象になった法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」で、法曹ではない、民間出身の委員として問題提起を続けた映画監督・周防正行さん。裁判員裁判事件などに限り取り調べの全過程を録音録画(可視化)することを求めるなどの答申案がまとまってから間もなく10年、いまの刑事司法はどう映るのか。
――2011年に始まった特別部会では、村木厚子さんらとともに取り調べの録音録画の対象を「全事件・全過程にすべきだ」などと主張されていました。
逮捕前の取り調べや、被害者や参考人も含めた全ての取り調べを対象にすべきだと考えました。逮捕後だけ可視化すれば、逮捕前に自白をとろうとするだけです。参考人らの供述でも、きちんととられたものか検証するには可視化は必要です。
――しかし、捜査機関側からの反発もあり、実現しませんでした。
大阪地検の証拠改ざん事件(10年発覚)で、法務省側は「特捜部がなくなってしまうかもしれない」という危機感を本当に持っていたようです。一方、警察は「なぜ検察の失敗の肩代わりをしなければならないのか」くらいの感覚だったと感じます。法務省にとっても、可視化の対象を裁判員裁判と検察の独自捜査事件に絞るのは、現実的な落としどころだったのではないでしょうか。
私たちは、可視化の導入後、取り調べが適正に行われているかなどの運用状況を検証し、対象事件を全事件に拡大する方向で進めることを法務省側に確認した上で、対象を絞る案にとりあえず賛成しました。
法務省の協議会メンバー、今回は「さらにひどい」
――その検証は22年7月から、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」で行われています。議論は注視していますか。
もちろんです。ただ、協議会メンバー10人のうち、弁護士が2人、マスコミ関係者が1人で、あとは学者2人と捜査機関や裁判所の人間。特別部会も多勢に無勢でしたが、今回はさらにひどい。
また、特別部会の議論はほぼ公開でしたが、協議会は非公開で、議事録が遅れて公開されるだけ。マスコミの注目度も低い。法務省は、人知れず終えてしまうつもりではないでしょうか。
――特別部会で議論していた当時、全事件で取り調べが可視化されれば、取り調べの問題は一掃されると考えていましたか?
「可視化」に注力したかつての議論
そうではなく、可視化によって取り調べのやり方を変えざるを得なくなるだろうと考えていました。多くの人は、「やっていないことはやっていないと言えば済む」と思っているかもしれませんが、そうではない。
布川事件で強盗殺人罪が確定した後、再審無罪となった桜井昌司さん(今年8月に死去)は、取り調べの際、事件があったとされる日のことを何とか思い出して、「兄の勤めるバーに行った」と話したところ、刑事から「バーの人間は『来ていない』と言っている」とアリバイを否定されました。警察官がウソをつくと思っていなかった桜井さんは気持ちが折れ、自白につながった。可視化すれば、こういった取り調べをすることはできなくなると考えていました。
記事の後段では、無罪を主張して黙秘する女性に対し、警察官が自白を迫り続ける様子の音声動画を紹介しています。
――可視化に一定の効果はあ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル