ハンセン病患者を強制的に隔離した「らい予防法」が廃止され、まもなく四半世紀となる。隔離の「壁」を越えようと、鹿児島県の療養所で60年ほど前に創刊された文芸同人誌「火山地帯」が昨年末、200号に達した。
火山地帯は、国による人権侵害を追及した作家の故島比呂志が主宰。1958年、隔離されていた鹿児島県鹿屋市の国立療養所「星塚敬愛園」の自室の片隅で生まれた。園内には入所者の文芸作品を収録する雑誌はあったが、「文学には差別はないはずだ」「いいものを書けば社会は認めてくれる」と言い、偏見と差別からの解放を目指した。
入所者と職員の計26人の書き手でスタート。編集長の島は発刊の辞でこうつづった。
〈火山を爆発させて、地球を変形させ、そこに巨大な文学碑を建てよう〉
火山とは桜島のこと。噴火活動が活発で、誰からともなく「火山地帯」と命名しようと声が上がったという。島から編集長を引き継いだ作家の立石富生さん(71)は「不条理に閉じ込められた思いは桜島のマグマのようにたまり、爆発させたかったのでしょう」と話す。
新薬で治る病気になったのに、らい予防法で社会に戻ることができない。不条理と憤り。いかに人間としての尊厳を傷つけられているか。島は創刊した翌年、療養所を人口1千人余の「まったく玩具のような小国」に見立てて風刺した小説「奇妙な国」を発表した。
〈この国では滅亡こそが国家唯一の大理想だということだ〉〈金色燦然と光り輝く丘の納骨堂の美しさは、滅亡の国のシンボルと言っても過言ではないだろう〉
文芸評論や新聞などに取り上げ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル