【動画】自衛隊や消防車などの車両が入った順天堂病院 佐賀豪雨3日目=堀英治撮影
九州北部の記録的な大雨で、佐賀県大町町の順天堂病院は孤立状態が解消されたものの、近くの鉄工所から流出した推定5万リットルもの油の除去という課題が残る。
順天堂病院では30日、午後になると、水がひき、病院へ見舞いに訪れる家族らの姿も見られた。同県武雄市内で居酒屋を営む古田文さん(39)は、週に1度は入院中の母親の顔を見にきていた。大雨で病院が孤立した28日以降、心配で毎日病院に電話をかけたが、「道路が通れないためお見舞いは無理」と断られていた。「ようやく来られてよかった。きっと向こうも私たちのことを心配してくれていたと思う」と話し、病院に入っていった。
油の流出元の佐賀鉄工所大町工場は病院から約1キロ離れたところにある。同社幹部によると、油はボルト製造過程で冷却用に使っていた。重油・軽油という分類ではないという。
油槽が床に埋め込まれたような形で八つあり、ボルトがベルトコンベヤーで運び入れられ、硬さや粘りを出すために冷やされた後に出ていく。ふたは閉められない仕組みだ。想定以上の水が流れ込み、流出につながったという。
病院周辺の住宅地では自宅の様子を見に戻ったり、片付けを始めたりする人たちの姿が見られた。片付けを始めた住民の中には「油のにおいがきつい」とマスクをつける人もいた。人々は口々に「ホースの水で流しても、泥だけ落ちて油がなかなか落ちない」と困った様子だった。
60代の男性は水田のイネを手に取り、「油でヌルヌルしている。10月10日ごろに収穫するだけだったのに、全て廃棄だ。大豆もブロッコリーも駄目。機械も使い物にならない。どうやって生活すればいいのか」と嘆いた。
国土交通省武雄河川事務所によると、鉄工所のそばを流れる六角川で油膜が確認された。河口から約17キロ上流の鉄工所付近から流れ、約15キロにわたって続いているといい、河口まで約2キロの距離に近づいている。
河口付近の有明海でも見つかったが、県有明海漁協(佐賀市)は河口堰(かこうぜき)があることや、鉄工所からの黒い油とは見た目が違うことなどから、水没した車などからのガソリンなどではないかとみている。ガソリンなら揮発性が高く、ノリ漁が始まるのは1カ月以上先のため、漁に影響はないとみている。
相次いだ冠水時の車事故、注意することは
九州北部が見舞われた記録的な大雨で犠牲になった3人のうち、2人は車を運転中に流されて亡くなった。JR佐賀駅などが浸水した佐賀県では、水没した車の救援要請が相次いだ。日本自動車連盟(JAF)は大雨時の運転は危険だと呼びかけている。
大雨特別警報が出た28日、福岡県八女市で男性(84)が浸水した軽乗用車から救助中におぼれ、その後救出されたが死亡が確認された。男性の車は用水路にかかった橋を渡った直後に流されていた。近所の住民によると、現場は当時、冠水していた。
男性は、足の不自由な妻を避難させることができるか確かめようと、車で自宅を出たという。
同じ日、佐賀県武雄市でも、水田で見つかった車に乗っていた50代の男性が死亡。当時、現場近くの道路は冠水していた。近くで飲食店を営む渡辺享さん(62)は「まだ暗く、冠水に気付かずに水の中に突っ込んで流されてしまったのではないか」と話す。
佐賀市でも女性が運転していた車が水没し、意識不明になった。
JAFによると、28日に佐賀県で寄せられた冠水や水没による救援要請は399件。多くが冠水した道路でエンジンが止まり、身動きが取れないという内容だった。冠水した路面を走行するとエンジンが水につかり車が止まる恐れがあり、立ち往生してさらに水位が増せば、流されることもあるという。
5~10センチほどの水深でも泥水で水面下の様子が分からず、道路と側溝や水田との区別が付きにくくなり転落する危険がある。浸水すると、水圧でドアが開かなくなり、電気系統が故障すると窓やドアのロックを操作できなくなる恐れがあるという。ガラスを割るハンマーを車内に常備することも重要だ。
担当者は、大雨の際は車の運転を控えるように呼びかけたうえで、「浸水し始めたら、出られなくなる前に焦らずすぐに車の外に避難を」と話している。(倉富竜太、山野健太郎)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル