相次ぐ保釈中逃走、現行制度限界か 法整備求める声(産経新聞)

 保釈中の被告が逃走したり、再犯に及んだりするケースが後を絶たない。背景には、裁判所が保釈を広く認める傾向を強めていることがある。1審で実刑判決が出され、逃亡の恐れが高まっても再保釈を認めるケースも少なくなく、検察は裁判所の判断に疑問を投げかける。逃亡など保釈条件に違反すれば保釈保証金を没収することで、公判への出頭を確保する現行制度は限界にきているのか。法曹関係者からは逃亡を防ぐための法整備を求める声も上がる。

 ■「今は形式審査」

 覚せい剤取締法違反の罪で起訴され、保釈中だった50代の被告の男は7月10日の宇都宮地裁の初公判に出廷せず、今も身元引受人の女性と逃走を続けている。地裁が被告の保釈条件として制限住居に指定したのは、この女性が40代の夫と暮らす福島県内のアパートだった。

 被告は6月12日に起訴され、翌13日に保釈された。夫は「被告が突然、家に転がり込んできたので、泊めてしまった」と話す。「被告の名前も裁判所から送られてきた通知を見て初めて知った」。関係者によると、被告と知人女性は交際関係にあった可能性があるという。

 夫は「知らない間に妻が身元引受人になっていて、保釈保証金も妻が支払っていた。普通は親類が身元引受人になるのではないのか。なぜちゃんと調べず保釈したのか」と憤る。

 検察関係者は「今は制限住居さえあれば、どんな所か慎重に検討せずに形式審査で保釈を安易に認めるケースが多い」と指摘する。

 ■「再保釈」も増加

 保釈を認める傾向が強まったきっかけの一つは、平成21年に導入された裁判員制度だ。国民が参加する短期間で分かりやすい公判の実現に向け、被告が弁護士と十分に相談できる環境がより重要視されるようになった。最高裁も26年と27年に、それまで保釈を容易に認めない要因となっていた証拠隠滅の可能性を具体的に検討するよう促す決定を出し、流れが加速した。

 ただ、元検事の高井康行弁護士は「1審で実刑判決を受けた被告についても、保釈を広く認めるのはおかしい」と指摘する。

 裁判官は保釈請求があった場合、証拠隠滅の恐れがある場合などを除き保釈を認めなければならないが、これは刑事裁判で有罪が確定するまでは罪を犯していない人として扱わなければならない-という「無罪推定」の原則が働くからだ。1審で実刑判決を受けた場合は無罪推定が弱くなるため、保釈は権利ではなくなり、裁判官の裁量に委ねられ、被告の健康状態や家庭の事情などを考慮して判断される。

 実刑判決後の再保釈の判断をめぐっては、実刑判決によって逃亡の恐れが増大するため、特別な理由がある場合にのみ再保釈を認めるとする「制限説」と、判決前の保釈と同様の基準でよいとする「非制限説」がある。複数の元刑事裁判官らの文献などによれば、制限説が主流とされている。

 司法統計によると、実刑判決後の再保釈は12年の263人から29年には808人と3倍に増加。特に25年(454人)からはほぼ倍増しており、検察からは「制限説に逆行する運用」との批判が出る。ただ、再保釈が許可される割合は近年20%台で推移しており、裁判所関係者は「裁判官は罪の軽重や判決内容、逃亡の恐れなどを考慮して判断している」と話す。

 6月に神奈川県愛川町で横浜地検の収容を拒否して4日間逃走した男は、3年8カ月の実刑判決を受けた後、再保釈中だった。今年3月には東京地裁が、殺人罪で懲役11年の実刑判決を受けた被告の再保釈を認めた。これは東京高裁が覆したが、検察幹部は「再保釈も広く認めるのは、逃亡や再犯リスクを高めるだけで極めて問題」と強調する。

 ■不出頭に処罰を

 現行制度は、保釈保証金を納付させ、保釈条件に違反した場合に没収することで逃亡を防ぐとの考えだ。しかし、保釈中の逃走や再犯が相次いでいる現状は、従来の仕組みが通用しなくなっていることを示している。

 捜査関係者は「今の制度は被告が逃げることを想定しておらず、性善説で成り立っている」と語る。

 近年は保釈保証金を貸す業者もあるといい、高井弁護士は「業者から借りた場合と、自分で納付する場合とで、同じ抑止力があるといえるのか」と疑問視。「今後は裁判所や検察の呼び出しに応じない場合、あるいは保釈中に逃走した場合、これを処罰できるようにするため不出頭罪などを設けたり、GPS(衛星利用測位システム)を装着させたりすることも必要」と指摘する。保釈中の再犯防止については「逃走中の再犯には法定刑を2倍にするなどの方策も検討すべきだ」と提言した。(大竹直樹)

 ■保釈 起訴後、被告の身柄拘束を解く手続き。被告本人や弁護人らが請求し、裁判所が検察官の意見を聞いた上で可否を判断する。刑事訴訟法は、証拠隠滅の恐れがある場合などを除き、保釈しなければならないと規定。裁判所が逃亡や証拠隠滅などの恐れの程度と、勾留によって被告が受ける健康上や公判準備上などの不利益の程度を考慮し、裁量で保釈を認めることもできるとしている。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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