せきが出始めたが、熱はなかった。ただの風邪だと思っていた。
福島県郡山市の30代女性は春、新型コロナウイルスの検査で陽性と判定された。「職場と保育園とスーパーしか行かない私が……」。介護の仕事をしていて、マスクや消毒にも気をつけていた。職場全体が2週間、休業した。
女性は1週間ほどで退院した。以前と同じ生活が戻る。そう思ったが、スマートフォンに届いた同僚の言葉が、心に突き刺さった。
「体調不良のときは早めに言ってくださいね。みんな迷惑しますから」
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職場で感染したのは女性だけだ。〈どこかで遊んでたんじゃないの〉。そう責められている気がした。
飲み歩いたり、都会の繁華街に出かけたりして、きちんと「自粛」しない人がかかる――。女性自身もそう考えていたが、誰でも感染しうることを思い知らされた。その現実が理解されず、休業のストレスや感染への不安をぶつけられたように感じた。
未知の感染症への恐れは世界中で膨れあがっている。不安は、他者を排除して傷つける言葉に姿を変える。「夜の街」や「東京問題」のように特定の集団や地域が名指しされ、本来は対立する必要のない人々の間で溝が深まっていく。
女性の記憶には、いまと重なる光景と言葉がある。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から、2年ほど過ぎたころだ。
首都圏のある広場。複数の地域…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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