全国でも屈指の人気温泉地、由布院(大分県由布市)に知る人ぞ知る名物の「寄席」がある。1984年に柳家小三治さん(人間国宝)が来訪して開催した落語会が原点。その後も、多彩な落語家を招いて続いてきた「ゆふいん寄席」は、今年で35年を迎えた。
8月21日夜、老舗旅館「亀の井別荘」の宴会場に人気ユニット「落語教育委員会」が登場した。柳家喬太郎さん、三遊亭歌武蔵さん、三遊亭兼好さんの3人。前座は、兼好さんの弟子で九重町出身の三遊亭じゃんけんさん。客席と仕切られた屏風(びょうぶ)の裏では、じゃんけんさんがCDラジカセを使って「一番太鼓」や「囃子(はやし)」を響かせた。
寄席の開催は3~4カ月に1回。亀の井別荘の元総支配人、尾崎章五さん(69)が世話人を務める「ゆふいんわらおう会」が企画する。始まりは、1度由布院で高座に上がったことのある小三治さんらのグループが、九州来訪の際に「もう一回どうですか」と声を掛けたのがきっかけ。落語好きの尾崎さんが世話役を引き受け、定期的に開くことにした。公民館などで開いたこともある。
「落語でもうけない」を胸に刻み、すべて手弁当。自ら東京の寄席へ出かけ、お目当ての落語家の落語を聞くなどして出演交渉し、当日は受け入れや接待も担う。「温泉とうまい食事」は落語家の心もつかみ「『由布院で話す』はステータス」という真打ちもいる。そうして構築された人脈がゆふいん寄席の財産だ。これまでに招いた落語家が披露したネタは、尾崎さんが保管するネタ帳にすべて記録している。
この日の前座のじゃんけんさんが、ゆふいん寄席で話すのは2回目。「前回も居られたお客さんの顔が今回もあったように思います」と話した。「マイクを使わず、落語家さんの息づかいや着物が擦れる音さえも感じることができる距離の近さは、他ではないよ」。ネタ帳をめくりながら尾崎さんがしみじみと語った。
寄席はこの日で115回目を数えた。初めて福岡県久留米市から訪れたという男性客は「雰囲気が非常に良かった。間近に見られて最高です」と顔をほころばせた。「落語の楽しさを一人でも多くの人に知ってほしい」と尾崎さん。会場を笑顔で去る客の顔を、うれしそうに眺めていた。
西日本新聞社
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