ほおを吹きつける風は、ひんやりとした匂いがした。海岸沿いから知床連山を仰ぐと、山頂付近が大きく雲に包まれていた。
北海道・知床半島で起きた小型観光船「KAZUⅠ(カズワン)」の事故から23日で1年半。船が出航した斜里町のウトロ地区は間もなく、事故が起きてから2度目の冬を迎えようとしている。
この間、家族への謝罪や説明を避け続けてきたのが、カズワンを運航していた「知床遊覧船」の桂田精一社長だ。桂田氏を知る地元関係者は言う。「桂田氏が最近、事故の話をしている姿をほとんど見たことがない」
事故直後に記者会見して以降、公の場に姿を現さなかった知床遊覧船の桂田精一社長。記事後半では、朝日新聞が独自入手した計画書に書かれていた社員に向けたメッセージ内容を紹介しています。
斜里町で観光業「しれとこ村」を営んでいた桂田氏が、知床遊覧船を買い取ったのは2016年のことだ。
だが、本人も「船に詳しくない」と認めているように、周囲は「桂田氏にとって観光船はあくまでもビジネスの一部」ととらえていた。事故2日前の昨年4月21日にあった観光船事業者と漁業関係者らによる「情報交換会」。遅れてやってきた桂田氏は黙って座っているだけで、一言も発しなかった。
そして、事故は起きた。
桂田氏は事故から4日後に開いた会見で、土下座して謝罪。事故直後に被害者家族に配った文書では、運航判断に自身の責任があったと認め、「運航基準通りにKAZUⅠの運航を行っていれば、事故の発生を回避できた可能性はあった」「運航管理者としての自覚も足りなかった」と説明した。
一方で、桂田氏は事故翌日、知人に「2カ月ぐらい営業できないかもしれない」と漏らしていた。地元関係者の目には「桂田氏は、さほど責任を感じていない」と映った。
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そして、自身の責任についても、当初の説明と食い違いを見せるようになる。
「船を出すのは船長判断」「…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル