平和への思いを詠んだ短歌コンクール「八月の歌」(朝日新聞社主催、岐阜県高山市共催、高山市教育委員会後援)の優秀賞10首と奨励賞45首が決まった。今年で12回目。一般の部に771首、中学・高校の部に885首の合わせて1656首の応募があった。フランスで平和活動に取り組む歌人、美帆シボさんが選考した。入賞作は次の通り。(敬称略、50音順)
◇優秀賞
【一般の部】
きっといるマララやグレタこの国に平和を創る名も無き十代(愛知県東浦町)岩本憲之
特攻兵の植えて征(ゆ)きにしさくらとぞ 介護ホームの庭に咲き継ぐ(愛知県岡崎市)嶋田稔
黙禱(もくとう)に代へて教師がアカペラで歌ひくれにし「長崎の鐘」(大津市)船岡房公
従軍の看護師のごときみは今コロナ嵐に白衣さらして(岐阜県関市)堀野慎吉
ひめゆりの壕ゆく吾の靴音にまつわりてくる少女の無言(群馬県伊勢崎市)宮沢春江
【中学・高校の部】
条約の締結祈る語り部の背中の傷は未だに癒えず(静岡県立藤枝東高3年)伊藤史織
戦争の恐怖と平和の祈りとが詰まる祖父(おおじ)の柳行李か(仙台市立吉成中3年)金田ひな子
ヒバクシャの昔語りの少年と自分を重ねる十七の夏(長崎県立長崎西高2年)中野壮一郎
今は朽ちし地雷注意の立て札が看る子どもらは無尽に駆ける(福岡教育大学付属小倉中3年)見立遼
正座して聴くひめゆりの塔のこと祖父母の家の夏の縁側(愛知県立旭丘高1年)渡辺美愛
◇奨励賞
【一般の部】
幾人の泣き叫ぶ声染み入るか原爆ドームの朽ちゆく壁よ(岐阜県高山市)打保洋子
我娘背負いし三つのランドセル アフガンの子等の背中で朱(あか)し(山梨県甲州市)小沢富子
灯籠の流れに添いて河口へと巡礼のごと橋をたどりき(東京都町田市)北沢洋子
三歳の私を遺(のこ)し母逝(ゆ)きぬ北満州の凍てつく大地(神奈川県相模原市)中根麓
宮地伸一戦地に詠みし北極星見上げて歩む自粛の町を(岐阜県高山市)西野紘子
戦いの基地作るため美(ちゅ)ら海に針飲ます如(ごとく)杭うち込みぬ(岐阜県高山市)西春彦
軍神の三月(マルス)コロナに立ち向かい死そして死されど咲く花蘇芳(はなずおう)(フランス)パトリック・シモン
内戦のさなかにコロナと戦ふ子 平和の下のわれさへ難きに(埼玉県狭山市)浜田幸一郎
老翁に「日本語がお上手」とつい言ひてはつと口閉づ韓国の地に(岐阜県高山市)広瀬亮子
コロナ禍に見事勝ちたる台湾の声殺さるる「平和」あらんか(東京都豊島区)黄郁婷
核無き世願って咲けり大輪の「愛吉のバラ」香(かおり)さわやか(岐阜県土岐市)深谷典子
郷土史が記す戦(いくさ)の付言には和平こがるる民の声充(み)つ(和歌山市)北東強
こんな風に始まつたのかもしれないとコロナ禍に思ふ戦争のこと(岐阜県高山市)武藤久美
教科書にはてなマークと書き込みと赤線記し叔父は出征(福岡県柳川市)穆谷祥子
ヤドカリに境界はなく辺野古の浜 鉄条網を行ったり来たり(岐阜県高山市)和田操
【中学・高校の部】
内戦で難民増えるアフリカをさらに蝕むコロナウイルス(静岡県立藤枝東高3年)池谷拓巳
憲法の意外と少ない条文に感じ取るのは平和の重み(福岡教育大学付属小倉中3年)伊藤聖枝
白い鳩や平和を告げる鐘の音も被爆者達には辛い一時(ひととき)(近畿大学付属広島中学校福山校2年)今福太一
泣く吾子に「首絞め殺せ」と罵声浴び母の無念の涙ガマに落つ(岐阜県立吉城高3年)岩愛子
言葉は心に刺さる刃物となる言ってしまったことは直せない(岐阜県・高山市立荘川中3年)遠所叶望
被爆者の伝えたいんだその思いそれを知らない今の子供に(岐阜県・高山市立国府中3年)大下綾佳
対コロナ見えない恐怖に人々はいつのまにか対感染者(静岡県立藤枝東高3年)岡村百華
帰還兵軍隊手帳を持ち帰り渡し続ける今も遺族に(岐阜県立飛驒神岡高3年)上ケ平渚
海原の声こそ消えね琉球の風に流れし名も無き命(神奈川県立厚木東高3年)河崎諒人
名ばかりの令和をつくる私たち名を越えるのも私たちなり(神奈川県立厚木東高3年)国光亜弥
シベリアで抑留生活送る人の命を支えた1本のスプーン(岐阜県・美濃加茂高1年)近藤ゆうみ
先人にありがとうと伝えたい平和な日常創る9条(神奈川県立厚木東高3年)斎藤いずみ
いじめとは小さな影にかくれてる その影にともす仲間の光(岐阜県・高山市立荘川中3年)櫻本大稀
アメリカ人の友あり共に論じ合う真珠湾と原爆のこと(名古屋市・南山高1年)杉浦朱李
あの日には武器を持った手 今そして差しのべる手に変わる時代は(岐阜県・高山市立荘川中2年)高橋七愛
平和集会 夏の記憶を伝えゆく鶴は千年 私は三世(福岡女学院高2年)田中心和美
五つの子オクニノタメとタケをてにあそんだ子らを忘ることなし(岐阜県・高山市立丹生川中3年)土井琢登
世界地図よくよく見たら同じ地球そうには見えない経済格差(福岡教育大学付属小倉中3年)友永結人
僕たちが当たり前だと思う日々 平和の原点そこじゃないかな(岐阜県・高山市立丹生川中3年)中島陣
手作業で糸を通した千羽鶴感じた重さは我らの祈り(長崎県立長崎西高1年)福田久乃
物事を力で解決した時代 今も昔も消えない思考(岐阜県・高山市立丹生川中3年)黄智瑛
思い出を思い出さないおばあちゃん今の口ぐせ命は大事(岐阜県・高山市立国府中3年)前野鈴奈
押し入れに墨で塗られた楽譜あるや浜辺からふく異国のメロディー(愛知県立幸田高2年)前原あおい
非常時も戦う医療攻め入るは前からコロナ後ろから差別(静岡県立藤枝東高3年)松丸和佳奈
腹が立つだから手が出た自分の手 拳一つが命に関わる(岐阜県・高山市立荘川中2年)三島宗一郎
戦争がなくなったのかと思いきや今はとびかう言葉の暴力(岐阜県・高山市立国府中3年)森垣舞音
皮ふとけて遺書を書く手も暇もなく死んでしまったヒロシマの夏(岐阜県・高山市立東山中1年)門前遙希
ピカドンに奪われし母の玉子焼 溶けてゆがんだ鉄箱転がる(岐阜県立斐太高1年)門前凜音
忘れない嘉代子桜と双子クス土の中から「生きて」をつなぐ(仙台市・聖ウルスラ学院英智高1年)横溝麻志穂
倒れこむ放射にやられた人々を振り切って逃げる人の悲しさ(岐阜県立飛驒神岡高3年)米沢祐輝
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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