日本三大祭りの一つ、祇園祭が1日に始まり、月末にかけて様々な関連行事が執り行われる。コロナ禍のなか、今年は2年ぶりに京都の街中に山鉾が建つ。その日に向けて準備する人たちがいる。(北村有樹子)
祇園祭の期間に大型の鉾(ほこ)が立ち並ぶことから、「鉾の辻」と呼ばれる四条室町交差点。その南にある鶏鉾(にわとりほこ)の収蔵庫には、鉾のさまざまなパーツとともに、関係者がラミネート加工して大事に保管している十数枚の写真がある。
「今年は勘が鈍っているかも」
「今年は勘が鈍っていると思うので、これがあって心強い」。そう喜ぶのは、鶏鉾の櫓(やぐら)や屋根を組み立てるチームの棟梁(とうりょう)で建設業、小林久也さん(53)だ。
A4判でプリントされた写真の数々に写っているのは、縄が巻き付けられた木材。「縄がらみ。鉾マニュアルやね」と小林さんは言う。
鶏鉾は、ギリシャ神話の英雄ヘクトールがトロイア戦争を前に妻子と別れる場面をモチーフにした、国重要文化財のタペストリーが有名だ。装飾品を支える高さ約24メートルの本体は、釘を1本も使わず、縄で木材を固定することで組み立てられている。この特殊な技法が、縄がらみだ。
「電動ドライバーでビスを留めたり、金づちで釘を打ったりするのとは全く異なる作業」と、小林さんは縄がらみについて説明する。
縄が緩まないよう、木づちでたたいては引っ張りながら、櫓の柱や鉾の中心に立つ「真木(しんぎ)」のパーツを締めつけていく。使う縄は6キロメートル分で、重さ300キロほどにもなる。
従来、この伝統技法は、地元の職人たちが口伝えと現場での作業を通して伝えてきた。これが写真となって「見える化」されたのは約5年前。大工チームの一人、吉野孝之さん(49)がデジタルカメラで撮ったのが始まりだ。
「大工チームに入ったころは、メンバーが総入れ替えされたころ。やり方を教えてくれる人が内部にはいなくて、ほかの山鉾(やまほこ)に関わっている工務店に教わって覚えた。鉾を建てるのは年に1回だけ。写真で残せば翌年も役に立つと思った」と吉野さんは言う。
新型コロナウイルスの影響で、昨年の祇園祭は山鉾巡行や山鉾を路上に建てての宵山(よいやま)などが中止された。今年も巡行は中止だが、山鉾建ては34ある各山鉾保存会の判断でやってよいことになった。山鉾に使われている縄がらみが、2年連続でやらないことで廃れかねないと、関係者が心配したためだ。
作業は、ぶっつけ本番。幸い、鶏鉾には「マニュアル」がある。暗譜していなくても楽譜を見て演奏するイメージに近いようだ。近年は作業工程をスマートフォンのカメラで撮り、クラウド(インターネット上の保管場所)に保存もしているため、いつでも手軽に見られる。
「ラミネートの写真を見ながら手を動かしたい。巡行できないのは残念やけど、鉾建てができるのはありがたい」と小林さんは言う。
一方、「黒主山(くろぬしやま)」の保存会は、手伝ってくれる職人の廃業も心配している。コロナ禍で建設業の景気が心配だからだ。昨年12月に収蔵庫の整理と掃除をした際には、棟梁らに仕事を依頼。本来の山建ての仕事ではないが、保存会の大田龍二理事長(68)は「少しはお役に立てたかも」と話す。
お囃子の練習に「横笛シールド」
コンチキチンで知られる祇園祭のお囃子(はやし)は、各山鉾(やまほこ)の「囃子方(はやしかた)」と呼ばれるメンバーらが太鼓や横笛、鉦(かね)を使って響かせる京都の夏の風物詩。飛沫(ひまつ)が飛ぶという指摘もあって、コロナ禍の昨年来、沈黙を強いられてきた。
今年は違う――。大船鉾(おおふねほこ)の囃子方たちが、そう思えたのは4月のことだ。
その日、集まった面々を前に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment