山口県阿武町のJR奈古駅に近い集落に、築100年ほどの広い間口の建物がある。久原(くはら)久美子さん(37)が、その「八祥園茶舗」の店主になって3年が経とうとしている。
店は祖母の八道(やじ)友代さん(88)が40年ほど前に始めた。山口市出身の久原さんは子どもの頃に町に遊びに来ては、店で過ごしたり一緒に配達に行ったりしていた。茶の香りが漂う店内は、ゆっくりと時間が流れていた。
思い出の詰まった場所を残したい。高齢の祖母が店をたたもうとしていると聞き、継ぐことを決めた。2019年、和歌山県にいた久原さんは一家で町に移住した。茶道の教室にも通って、お茶や茶道具について一から勉強を重ねた。
農家とコラボ、新たな取り組み
店を継いだ久原さんは、新しい取り組みを始める。ほうじ茶や玄米茶などかねて扱ってきた商品に加え、町内の農家とコラボして、オリジナルの開発・販売を進めた。海沿いの土地区産の玄米を緑茶とブレンドした「潮風のあまみ」(100グラム540円)や、山間部の福賀地区産の玄米をほうじ茶とブレンドした「火山のめぐみ」(同)だ。新商品をSNSで発信し、道の駅などでイベントがあれば出品する。
3人の子どもを育てる久原さん。「同世代のお母さんたちが興味を持って、買いに来てくれることが増えた」と喜ぶ。店の小上がりでお客さんとお茶を飲みながら世間話をすることもある。
町外からやって来て5年ほど。海と山に囲まれた暮らしを「素敵」だと感じているが、「その魅力をもっとアピールしないと伝わらないと思った」。
地域振興を支援する一般社団法人「あぶナビ」の理事になり、海に潜ってサザエをとる「一日海士(あま)体験」などの観光コンテンツ作りに携わる。昨秋から集落支援員も務める。あぶナビスタッフの佐藤龍助さん(46)は「いろいろこなす『何でも屋さん』で、みんなの信頼は厚い」と話す。
「朝から晩までバタバタしていて手応えはまだないです。けれど、何かしてくれるんじゃないか、という期待を持ってもらえるようになったのでは」と久原さんは振り返る。高齢化する地域の先頭に立ってまちづくりに取り組む町の若者や移住者が出てきてくれたら、と願っている。(向井光真)
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八祥園茶舗(阿武町奈古2682、電話08388・2・2932) 玄米茶などのお茶のほか、コーヒー豆、オリジナルスペシャルティーコーヒー、濃厚な抹茶チョコレートなどの茶請け菓子を販売している。営業時間は午前9~午後6時ごろ、日曜休み。
◆yabは19日午後6時15分からの「Jチャンやまぐち」で放送予定です。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル