初夏の乾いた風にそよぐ新緑、抜けるような青空-。絶妙な湯加減と露天風呂から望む景色に身も心も癒やされる。福島市西部の山あいにある土湯(つちゆ)温泉。懐かしい風情が漂う温泉街は東日本大震災以降、入り込み客が落ち込み、16軒あった旅館のうち5軒が廃業。危機的状況が続いていたが、5月に官民一体で進めてきた5年にわたる再生事業が完了、新たな道を歩み始めた。
■風評被害で客足減少
土湯温泉観光協会によると、土湯温泉を訪れる1年間の宿泊客は、平成4年度に約42万人を数えた後、減少傾向に転じ、22年度は27万人を割り込んだ。さらに追い打ちをかけたのが23年3月の東日本大震災。激しい揺れで建物に被害が出たり、東京電力福島第1原発事故の風評被害で客足が激減した。当時、温泉街一帯の放射線の数値は問題なかったという。
23年度には宿泊客が約11万8000人まで落ち込み、その後も宿泊客は年間15万人前後で推移した。危機を感じた福島市と地元は一丸となって、地域活性化を図り、客を呼び戻そうと、廃業した旅館の有効活用や街の景観整備などを計画。国の補助金も受け街の再生に乗り出した。
■落ち着いた茶系に
景観作りでは「まちづくり協定」を締結、統一感のある街並みの構築を目指した。補助金を利用して外壁を和風の茶系のものにしたり、道路に面した部分に木材や石、しっくいなど自然の素材を使ってもらおうという試み。20軒近い旅館や商店、一般家庭が制度を利用した。
土湯温泉観光協会の池田和也事務局長(61)は「建物はくたびれて空き家も目立ち、数年前まで街はモノクロのイメージだった」と振り返る。「これが一新され、訪れた人は『変わった』と言ってくれる」と満足そう。温泉街を見渡す高台から見る景色は、茶系で落ち着いた雰囲気に包まれていた。
また、5月24日には廃業した旅館を整備したまちおこしセンター「湯楽座」(ゆらくざ)と観光交流センター「湯愛舞台」(ゆめぶたい)がオープン。湯楽座には地場産品販売所やレストランがあり、素泊まり(1泊4000円~)もできる。
向かいにある公衆浴場「中之湯」(大人500円)と併せて利用すれば、宿泊と温泉を手軽に楽しめる。源泉かけ流しで単純温泉と炭酸水素塩泉の2種類を堪能できるのがうれしい。
土湯温泉はこけしの産地としても知られる。江戸時代末期に東北の温泉地で発祥したとされるこけしは、湯治客の土産品として広まった。
温泉街には、こけしの製造販売を手がける土産物店や工房も点在する。頭が小さめで胴も細め、おちょぼ口で表情の明るさが特徴という「土湯こけし」。散策がてら、素朴でぬくもりある伝統工芸に触れるのも悪くない。(芹沢伸生)
■土湯温泉 福島駅東口から路線バス「土湯温泉」行きで約40分。東北自動車道・福島西ICから国道115号経由で約20分。問い合わせは土湯温泉観光協会024・595・2217。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース